主体的学び研究所

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初年次教育から見えてきた学習者の思い

初年次教育で9年間同じカリキュラムを積み重ねてきた大学の調査結果を聴いた。一定程度の成績を獲得した学生を対象に主体的な学びの実現に関して質問をしたもの。これがとても興味深いのでご紹介したい。

「どのようなことを大切にして授業に参加してきたか?」という質問の回答は以下のものである。第一は友だちをつくることを大切にしてきた。授業への参加を通じて友だちをつくることがまず必要と考えている。逆に言うと友だちができないで学びを続けることは幅広い学びにつながらないと考えているとも言える。第二は欠席をしないこと。これはよく分る。第三は予習をしっかりやることであった。第四の授業中に集中力を高めるということよりも予習をしっかりやることが学びの成長には必要と考えているのである。

「この授業を通じてどういうことで自分が成長したと思うか?」という問いかけには、第一がコミュニケーションをすることに抵抗が少なくなった。第二がクラスで自分の意見を述べることが以前よりできるようになった。第三が文章の記述が上手くなったと思うであった。

カナダのクィーンズ大学のアクティブ•ラーニング教室での授業で、教室空間デザインが主体的学びや学びのアウトカムにどのような影響(効果)をもたらすかというすばらしい研究報告がある。この調査報告の内容も近々紹介したいと思う。

 

研究員  花岡隆一

主体的学びと脳の働きについて

主体的な行動をしたときに脳はその人固有の記憶や学習が形成されることは脳科学でわかっていることである。それではこのメカニズムを教育分野における学習者の主体的な学びをいかに促進するかという視点で研究されているのが仁木和久先生です。(詳しくは、「脳科学とが学習・教育」小泉英明/編著 仁木和久/〔ほか執筆〕 明石書店 参照ください)

少し専門的になるが、海馬が新しい記憶を整理するところであることは知られているが、このメタ認知・記憶には、意味情報・インサイト(洞察)、時間と空間環境などあらゆる記憶をつくる情報がバインディングされて海馬マップを形成していく。この海馬マップ(先生はグリッドとも呼ぶ)が形成されるプロセスが主体的な学びとも密接につながる。形成されたものが単なる個別情報かあるいはコネクションされた意味情報かの違いが出てくる。

この海馬バインディングは認知症の発症とその進み方にも影響を与える。(この研究もとても興味深い)現在脳科学と教育を有機的に結びつけた研究は少なく、仁木先生の研究は教育界で今後注目されていくと思う。

研究員  花岡隆一

デジタル時代の教育について考える

昨年船守美穂先生がオンライン教育を積極的に実践している米国アリゾナ大学の調査訪問をされた。実際にオンライン教育をやっている先生方に聴くと「デジタル時代に育った現在の学生は対面型座学では脳の集中力が持続しない。キャンパスの内外を問わずデジタル機器を使うと勉強が進む。そのためにオンライン教育をやっている。」という。しかもこのオンライン教育は協同学習を伴うものである。MOOCs 3.0もある意味でデジタル時代の授業方法といえるかもしれない。これは大変恐ろしいことであると思う。

最近デューク大学の5年間の調査でITが教育のデバイドを埋めない、むしろ格差を広げているということが分った。初中教育での話である。シカゴ大学の研究でも忍耐力や創造的頭脳は経験によって成長することがわかっている。

どんな家庭にもスマートデバイスやPCがあって幼児も自然に触れていける時代である。自然や社会との実際の触れあいが少なくなり、デジタル環境で育てられると、本来は時間をかけて考えるというプロセスを経て築かれるべき知能が脆くなる可能性がある。つまりデジタルで培われた知能は一定のプログラムが機能する範囲でしか役に立たないとも言える。現実の社会が益々デジタル化が進んでいる中で教育のデジタル化をどのように考えるか大きなテーマである。

 

研究員  花岡隆一

街づくりから人づくりへ

サステナブル•コミュニティ研究所(NPO法人)は地域創生は街づくりではなく「人づくり」であると考えて持続可能な社会のありかたを学び実践している団体である。人づくりは異文化の交流を通じて、より促進されるということがある。北海道苫小牧にあるむかわ町は、ししゃもの産地として有名であるが、やはり若者が少なくなっていて人づくりを通じたサステナブル社会の実現が期待されている。

先日、北海学園の菅原先生に「アカデミック•コーチング」の勉強会をむかわ町のむかわ高校で開催できないかご相談したところ快諾を頂いた。アカデミック•コーチングも社会の人づくりに貢献できれば又すばらしいことだと思う。

 

研究員 花岡隆一

大学の危機感について

この程文科省が「設置計画履行状況等調査」で大学や短大が申請したことに沿って適切に行われているかの調査内容を指摘、公表した。対象となったのは502校である。是正•改善指摘の内容は様々であり、授業内容が大学のレベルに到達していないというものもある。

研究所でこの問題を話し合った。「設置計画状況等調査」「認証評価」という大学の質保証をする仕組みは、一定の規定で大学の設置を認可するという「制度主義」であること。これが米などの文化的背景と違う。認可を受けた大学は、「最低基準を満たしたもの」という理解をいつの間にか忘れてしまっているのではないか。自ら立てた目標へ向かってより良い学習環境を提供していくということが大学運営という日常性の中で時にして置き去りになる。

ある意味で制度主義の欠点であり、大学の危機感がないと指摘するだけでは解決しない問題ではないだろうか。初等中等教育、教育に関する社会的背景など偏在する課題と一緒に考える必要も勿論ある。

 

研究員 花岡隆一

Why Don’t Students Like School ?

NYTに面白い記事があったので紹介します。

90%の教師が最近の生徒は注意力がなくなっていると言うが本当にそうなのかを考察した。集中できないのはスマホ(デジタル)が理由と思われるが違うと考える。デジタル世界は楽しみが無限にあるので頭が未来に向かってどこまでも素早く展開していくのであり、決して飽きっぽくなっているのではない。

むしろ懸念することは果てしないデジタル追究の結果、もうひとつの価値あることが見失われていくこと。人には外に発展する思考と内に向く思考(省察)がある。この省察という夢想する能力はとても重要であり、デジタル追究が過ぎると内に向く思考の時間が不足してバランスが崩れてしまう。そのためデジタル思考には一定の歯止めも必要である。

ダニエル•ウィリングハム氏(バージニア大学 心理学)より

 

研究員 花岡隆一

矢島里佳さんに会って <schoo WEB-campus(スクー)>

”0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げた矢島里佳さんは笑顔がすばらしい方です。日本の伝統文化を守る職人と子どもたちをつなげたいという気持ちで、この事業を立ち上げました。彼女は2013年ダボス会議のヤング•グローバル•シェイパーズに選出され、全国の講演会、テレビ、書籍等など目覚ましい活躍をしています。昨年目黒にaeru直営店をオープン。

そのお店で矢島さんに会って話しを伺いました。本業のaeruの商品づくりの他に、子どもの教育にも熱心に取組んでいます。お店でプロの音楽家による演奏会を開いて子どもたちに感じてもらう活動やスクーというwebキャンパスも実践しています。

主体的学び研究所の活動に興味を持ってもらいました。
子どもたちに本物に触れてもらうという教育はとても大事であると思います。

(和えるWEB: http://a-eru.co.jp)

研究員 花岡隆一

オンライン教育をなぜやるのか?

東京大学の船守美穂先生は地球物理学をやっていただけに現場に行きご自分で確かめるという方法を原則としています。文化人類学者の山口昌男氏を思い起こします。昨年、米国ダラスのPOD会議に出席されたご報告の中でオンライン教育がものすごい勢いで増えていることを知りました。勿論米国のオンライン教育隆盛の背景にはさまざまな理由があります。「オンライン教育をなぜやるのか?」を実際にやっている先生方に聞くと、特徴的な回答がありました。これがちょっとした驚きです。

「IT時代に育った学生は対面授業であると集中力に欠ける。ITやネット空間を通じた教育には自然と頭がついていくのだ」という答えです。成程と思うと同時に恐ろしさも感じました。

船守先生はオンライン教育では先端的な取り組みをしているアリゾナ州立大学も訪問して詳しい調査をされています。これはまたご紹介したいと思います。

 

研究員 花岡隆一

「大学国際化の虚実」中央公論2月号特集

主体的学び研究所フェローの倉部史記氏が中央公論2月号に投稿しているので早速拝読する。吉田文先生の隣という紙面で驚く。『急増する国際系学部を「看板倒れ」にするな』というタイトルで、高校生に寄り沿う立場を離れない倉部さんのいつもの視点が見える。社会の変化に沿って大学に求めるものが変わっていくのはある程度は理解できるが、大学が自己本位になることで高校生にミスマッチを与えていくことは決して許されないというのが主張である。(相変わらず8万人もの中退者が出ている)

中央公論の教育特集はその他にも、山際壽一京大総長、田村哲夫渋谷教育学園渋谷中学高校校長、柳沢幸雄開成中学•高校校長、岩渕秀樹文科省基礎研究推進室長、清水真木明大教授が記述していて基本的には現在置かれている立場からの提言がまとめられている。

その中で清水先生が『もし日本のすべての大学の授業が英語で行われたら』が面白い。日本と米国の大学運営の違いを明確に言っている。
「日本の大学は、みずからを「勉強したい者が主体的に勉強する場所」と規定し、監視されなくても勉強する少数の学生を対象とする高度な支援に教育資源を集中させてきた。」一方米国では「補助的な教育業務を担う豊富な人的資源と、この人的資源を確保するための人件費により、学生に無理やり勉強させる環境を作り上げてきた。」

主体的な学びを初等中等教育から実践できている者はどこの国でも数少ないのであるが米国ではそれを前提として「無理やり勉強させる環境を作り上げてきた」のである。このテーマについても今後考えていきたい。船守先生から頂いた問題提起である「米国の公立学校の危機(NCLB政策)」に関することである。

 

研究員 花岡隆一

オンライン教育3.0とは?

ニューヨーク工科大学のCTLにおけるコースデザインの第一人者であるZhadko博士を囲んで「オンライン教育3.0」=協同学習を実践目的としたオンライン教育である、ということを学んだ。
(東京大学 船守美穂先生の企画による)

米国では協同学習を促進するオンライン教育の実践が想像以上に進んでいる。オンライン教育は協同学習が可能であるがゆえに、対面教育より効率的で効果的な教育手段であると考えられ、協同学習を含まないオンライン教育は行う意味がないと言われるほどである。米国の大学では、背景にMOOCの出現および緊縮した高等教育財政などがある。オンライン教育における協同学習の方法や評価などについて多様な取り組みがされている。、テクノロジーの活用や支援体制についても興味深い取り組みが行われている。

オンライン教育3.0は、ブレンド型教育であり、かつSNSを使った教室内外授業である。学びに必要なものは省察の時間があること。省察とピア学習が繰り返して行われるなかで学びの向上があるもの。

協同学習が成立するために米国では様々な教育ツール(チップス)が開発されている。学生の学習文化を形成するモジュールでもある。Zhadko博士は7つの実践的テクノロジーを紹介する。Google Apps,Zoomなど汎用的なソフトからPrezi,Evernote,vtなどまで。

ブレンド型学習を有効にするための戦略も検討されている。ひとつの有効な方法として、3週間位を期間として家庭学習と対面学習での学びのヒントをその都度教師が与えることで学生が自分の学びの段階に応じて深い学びに繋げていく方策をあげる。(ひとつの協同学習でもある)

Dr. Olena Zhadko, Mgr. Course Development Center for Teaching and Learning, NYI T

研究員 花岡隆一