主体的学び研究所

03月

主体的思考力(セルフ•イニシアティブ)について

帝京大学ラグビー部監督の岩出雅之氏の話である。岩出氏は普通でない取り組みをしていると聞く。100名を越える部員を平等に支える。取り分け補欠選手への思いやりがすごい。普通は下級生がやるような仕事を4年生がやる。食事係、ボランティア、分析係、テーピングの仕事等。地道な取り組みを続ける中で主体性が育ってくる。ごみを拾うということが自然にできない人間には成長はないという。物事をきちんとやることの習慣づけである。

岩出監督のモットーがある。「主体的思考力」(セルフ•イニシアティブ)の育成。「4年間で主体性を持ち、考える力を持ち合わせた社会で活きる人材を育てたい。」ラグビーは「考えるスポーツ」である。主体的に取組まない限り成長はしていかない。森本康彦先生の言われる「自問自答」の繰り返しである。

「頑張れ」という言葉は実はネガティブな言葉です。実際に頑張っているのだができないということがある。これ以上どう頑張ればよいのか悩む。岩出氏は「大丈夫」「君を信じているから大丈夫」と声をかけるのである。帝京大学ラグビー部の強さはこういう監督の気持ちとそれに応える選手の主体的な取り組みにあることを感じる。

 

研究員  花岡隆一

主体的学びと食の機能(長野県真田町での奇跡!)

元真田町教育長の大塚貢先生は、いじめ•非行•不登校等で荒れていた真田町の小中学校を改革した。この10年は非行、犯罪、不登校はゼロである。生徒は主体的に学ぶようになり学業成績も全国のトップレベルになっている。この背景に食の改善がある。(詳しくは「給食で死ぬ」コスモ21)

高校生の40%が生活習慣病予備軍という調査がある。ファーストフード、コンビニ食、脂と肉の食事、化学調味料•保存剤をとっているためである。血液がドロドロになり、脳に酸素が十分供給できないため前頭葉が働かなくて、省察力のない思うとやってしまう脳になる。情操感情もなくなってくる。

真田中学では80人の教師全員が一体となって授業改革をやった。相互に授業を見学し批判して、生徒が眠らない授業をつくりあげた。先生が変わったのである。先生が変わると生徒も段々変わってきた。人間生活の根本に立った改革を目指した。生徒が主体的になると大きな変化が起きた。本を読むようなった。図書館はいつも一杯になる。全国読売新聞作文コンクールで優勝する生徒が出て来た。何かに取組む力が格段に向上した。全国合唱コンクールで優勝するようになった。すべて生徒が主体的に取組んだ結果である。

それでも不登校などがゼロにはならなかった。教師の努力の限界を越えている何かがある。それが食であった。給食をパン食、肉食から米飯食、青魚、大豆などに変えた。オーガニックに変えた。PTAや行政から抵抗があったが頑張って実行した。脂と肉の食事からの大変革である。アトピーもなくなった。生活習慣病予備軍はなくなった。生徒がさらに主体的に学ぶようになった。学業成績は全国のトップクラスになったのである。小浜市、三島市などへもこの取組みは広がっている。

 

研究員  花岡隆一

学習空間(教室)デザインがもたらすアクティブ•ラーニングへの効果

カナダのクィーンズ大学は、アクティブ•ラーニング教室(空間)デザインが学習成果に与える影響の調査を行った。その方法は、従来型の教室との比較は勿論、アクティブ•ラーニング型の教室も3つの違うコンセプトを設計してそれらの比較も行った。

アクティブ•ラーニングは一般的に講義+協同学習/スマートデバイスなどによるIT重視による協同学習やPBL/双方向型を重視した協同学習/実習重視型などがある。教室の規模も10人、50人、100人、数百人と異なる。クィーンズ大学での実験は、48人のFlexibility教室•70人のInteractive教室•136人のPBL教室とした。

教室の設計に当たりアクティブ•ラーニングの要素を整理する。
①学習者中心の学びができる ②主体的に学びたくなるような環境である ③協同学習でも学習者個人が一人で省察したり認知をする時空間が与えられる ④アクティブ•ラーニングの評価が従来の学習とは違う形で実践できる ⑤アクティブに学べるプログラムが形成される空間である ⑥学習者と教職員が一体となって学べる環境など、が整理される。

この目標に沿った教室の設計を3つの異なるタイプで実現した。
(教室デザインの詳細に関しては別途報告をしたい)

この3つの教室で学んだ学習者と教師の成果は以下の通りである。

(学習者)
•討議が活発になった
•多様な学習ができるようになった
•学習開発ができた、学習方法が変わった
•主体的な学びを促進された、授業への参加意識が向上した
•学生同士、教師とのコミュニケーションが活発になった
•すばらしい協同学習が実現した
•従来教室より勉強が進んだ

(教師)
•学生がいきいきと学び自分も大きな成長をできる
•授業がより高いレベルにいっていることが体験できた
•協同学習がすごく上手くできる
•教師としての体験をレベルアップできた
•映像を自由に使えるのは学習の多様化を生む

クィーンズ大学は全学でアクティブ•ラーニングを進めているが、このためにアクティブ•ラーニングを実践するtipsを沢山もっている。これは本当にすごい。

 

 

研究員  花岡隆一

「看護と社会」研究全国集会に参加して

帝京大学板橋キャンパスで開催された第10回「看護と社会」研究全国集会に参加する。主催者を代表して帝京大学星直子先生からご挨拶がある。「人は生涯に亘り学んでいく。社会の変化に対応して学びも変化する。看護学も専門学としての位置づけだけでなく社会における個人としての立場での学びを深めていかなければならない。」

やまだようこ先生(京大名誉教授、Life-span development psychology)は、「もの語り」の働きは未来をつくり、人生の意味をみつけ、人を結びつけるという。generativity(世代をむすぶもの語り)を大江健三郎の「M/Tと森のフシギの物語」を引用して説明してくれる。質の高いプレゼンである。主体的学び研究所に投稿して頂いている山田肖子先生(比較教育、アフリカ研究)が文化の一元化が人間社会を崩壊すると言われるが、やまだ先生も大和ことばの起源をもつ日本には日本独自の教育の在り方があると指摘されるのではないかと考える。

星先生の締めの言葉である。「社会学にはダブルバインドということがある。今の専門学、例えば看護学は国家試験に受かる学問という方向に針が振れすぎていないだろうか。生涯学び続けるための学問(リベラルアーツとも言える)としての学びをすれば、看護学も又違う視点で見えてくるものがあるのではないか。」

とても清々しい気持ちになった。

 

研究員  花岡隆一

初年次教育から見えてきた学習者の思い

初年次教育で9年間同じカリキュラムを積み重ねてきた大学の調査結果を聴いた。一定程度の成績を獲得した学生を対象に主体的な学びの実現に関して質問をしたもの。これがとても興味深いのでご紹介したい。

「どのようなことを大切にして授業に参加してきたか?」という質問の回答は以下のものである。第一は友だちをつくることを大切にしてきた。授業への参加を通じて友だちをつくることがまず必要と考えている。逆に言うと友だちができないで学びを続けることは幅広い学びにつながらないと考えているとも言える。第二は欠席をしないこと。これはよく分る。第三は予習をしっかりやることであった。第四の授業中に集中力を高めるということよりも予習をしっかりやることが学びの成長には必要と考えているのである。

「この授業を通じてどういうことで自分が成長したと思うか?」という問いかけには、第一がコミュニケーションをすることに抵抗が少なくなった。第二がクラスで自分の意見を述べることが以前よりできるようになった。第三が文章の記述が上手くなったと思うであった。

カナダのクィーンズ大学のアクティブ•ラーニング教室での授業で、教室空間デザインが主体的学びや学びのアウトカムにどのような影響(効果)をもたらすかというすばらしい研究報告がある。この調査報告の内容も近々紹介したいと思う。

 

研究員  花岡隆一

主体的学びと脳の働きについて

主体的な行動をしたときに脳はその人固有の記憶や学習が形成されることは脳科学でわかっていることである。それではこのメカニズムを教育分野における学習者の主体的な学びをいかに促進するかという視点で研究されているのが仁木和久先生です。(詳しくは、「脳科学とが学習・教育」小泉英明/編著 仁木和久/〔ほか執筆〕 明石書店 参照ください)

少し専門的になるが、海馬が新しい記憶を整理するところであることは知られているが、このメタ認知・記憶には、意味情報・インサイト(洞察)、時間と空間環境などあらゆる記憶をつくる情報がバインディングされて海馬マップを形成していく。この海馬マップ(先生はグリッドとも呼ぶ)が形成されるプロセスが主体的な学びとも密接につながる。形成されたものが単なる個別情報かあるいはコネクションされた意味情報かの違いが出てくる。

この海馬バインディングは認知症の発症とその進み方にも影響を与える。(この研究もとても興味深い)現在脳科学と教育を有機的に結びつけた研究は少なく、仁木先生の研究は教育界で今後注目されていくと思う。

研究員  花岡隆一

デジタル時代の教育について考える

昨年船守美穂先生がオンライン教育を積極的に実践している米国アリゾナ大学の調査訪問をされた。実際にオンライン教育をやっている先生方に聴くと「デジタル時代に育った現在の学生は対面型座学では脳の集中力が持続しない。キャンパスの内外を問わずデジタル機器を使うと勉強が進む。そのためにオンライン教育をやっている。」という。しかもこのオンライン教育は協同学習を伴うものである。MOOCs 3.0もある意味でデジタル時代の授業方法といえるかもしれない。これは大変恐ろしいことであると思う。

最近デューク大学の5年間の調査でITが教育のデバイドを埋めない、むしろ格差を広げているということが分った。初中教育での話である。シカゴ大学の研究でも忍耐力や創造的頭脳は経験によって成長することがわかっている。

どんな家庭にもスマートデバイスやPCがあって幼児も自然に触れていける時代である。自然や社会との実際の触れあいが少なくなり、デジタル環境で育てられると、本来は時間をかけて考えるというプロセスを経て築かれるべき知能が脆くなる可能性がある。つまりデジタルで培われた知能は一定のプログラムが機能する範囲でしか役に立たないとも言える。現実の社会が益々デジタル化が進んでいる中で教育のデジタル化をどのように考えるか大きなテーマである。

 

研究員  花岡隆一

街づくりから人づくりへ

サステナブル•コミュニティ研究所(NPO法人)は地域創生は街づくりではなく「人づくり」であると考えて持続可能な社会のありかたを学び実践している団体である。人づくりは異文化の交流を通じて、より促進されるということがある。北海道苫小牧にあるむかわ町は、ししゃもの産地として有名であるが、やはり若者が少なくなっていて人づくりを通じたサステナブル社会の実現が期待されている。

先日、北海学園の菅原先生に「アカデミック•コーチング」の勉強会をむかわ町のむかわ高校で開催できないかご相談したところ快諾を頂いた。アカデミック•コーチングも社会の人づくりに貢献できれば又すばらしいことだと思う。

 

研究員 花岡隆一