主体的学び研究所

2014年

協調学習がないオンライン学習は学習ではない!

本日は主体的学び研究所にニューヨーク工科大学のCTLでコースデザインの指導をしているOlena Zhandko先生をお招きしてセミナーを開催しました。これは東京大学の船守美穂先生の企画によるものです。。日本の高等教育においても興味深いテーマですので簡単にご紹介します。

米国では教育コストの急増により効率化ということが真剣に考えられていますが、MOOC第3世代はMOOC Movementをキャンパス内で活用することでコストの効率化を図っている、という報告は船守先生の調査にあります。つまりオンライン学習が従来とは違う形で注目されています。厳密に言うとブレンド型学習なのですが、オンライン学習の未来型は協調学習が伴うものであるということです。

このオンライン学習における協調学習の有り様についてニューヨーク工科大学での実践を含めた米国の紹介ですが、一方通行になりがちなオンライン学習を主体的学び、深い学びさらにはアダプティブな学びに繋げていくかはマスタリー•ラーニングに近いものがあります。つまり、きめこまかな教師のフォローアップが必要になります。ちょっとした質問(課題)を与えて考える時間をつくる。オープンソフトを活用して学生同士、学生と教師が教師外でコミュニケーションする場(バーチャル空間)を活発にするという流れです。
特にピアー学習の仕組みを張り巡らせることが大切である。一方で学生も教師も時間の制約があるのでどこまで教室外での協調学習を実践するかはよく考える必要があります。

セミナーの詳しい内容は研究所ホームページにアップされると思いますのでご覧ください。

研究員 花岡隆一

”ICEモデル”のこころについて

ICEモデルの開発者の一人であるSue先生(クィーンズ大学、カナダ)の話をよく聴くと何を大切にしているかがまた見えてきた。

アセスメントが学びを促進する。アセスメントと学びは密接な関係がある。すなわち、アセスメントモデルが学生の学びを作るので、もしアセスメントの目標、方法、選択を間違えると学びも間違える可能性が大きいということが原点にある。Bloomの方法という評価された考え方があるが限界もある。それは学びとは直線的に高いレベルに行くものではなく、繰り返していくものであるから。「学習のレベルの違いを学ぶのではなく、質的変容を経験していくものである」ことに気がつく。

Ideas,Connections,Extensionsというのは、知識をつなげて応用するという一連の繋がりであり、学びのプロセスとしてはより複雑な思考を行うことであるが、これは一方向ではなく回転していくものでもある。学習の段階に応じてICEのどれが大切かが決まる。Eで終わるのでなく、またIに、Cに成長していくのである。(ここがとても大切なポイント)

Sue先生の秀逸さはICEの質的アセスメントに「動詞」を使うことに思い至ったことであるが、考えれば学びとは静的なものではなくダイナミックなものであるから「動詞」という仕掛けを考えたのは理屈にもあっている。この「動詞」について考えるとさらに面白いことが分る。つながり(C)に行きやすい動詞と留まっている動詞があるということがゲーリー先生の分析で分った。私たちもまだ見つかっていない動詞を是非発見したいと思う。

研究員 花岡隆一

ICEへの出会い!

広島県の下﨑邦明教育長にお会いする機会を得た。ICEの開発者であるクィーンズ大学(カナダ)Sue先生に同行した。『広島で学んで良かったと思える日本一の教育県の創造』を実現するための10年計画の「学びの変革」に取り組まれている。21世紀を担う子どもたちが地域でも世界でも社会的市民として生きることができるためのコンピテンシーの育成です。このための「学びの変革」つまり教育のパラダイムを変革していく計画です。知識を覚えるということから学んだ知識を活用し、協働して新たな価値を生み出すことへの転換を推進していきます。

下﨑教育長は、一冊の本に出会いました。それがICEモデルです。(『「主体的学び」につなげる評価と学習方法』(東信堂出版、主体的学び研究所発行)教育長の言葉をお借りすると「広島で推進していく「学びの変革」で考えていたことがこのICEにはとても良く整理されていて、あーこれだ!と思いました」ということです。

ICEの特長はポータブルであり、学習者が中心になって使えることです。広島県で生徒、学生、教師等教育の関係者がICEをさらに発展させていただけることを期待しています。

研究員
花岡隆一

沈みゆく大国とニュースクール :リベラリズムについて

1917年コロンビア大学の理事会が2人の教授を解雇したのに抗議してチャールズAビアードは辞任する。その後、ジョン•デューイも協議に参加してリベラリズムの実験大学であるThe New Schoolが設立される。24名の教員でスタートした学生数は348名であった。その内の半分が女性であった。「ニュースクールは知的刺激の継続や高等教育の必要を感じる多くのコミュニティ住民の期待を担っている」とデューイは寄稿した。(紀平英作氏「ニュースクールーしなやかな反骨者たちの奇跡」より)20世紀のリベラリズムの源流をつくったとも言えるビアードやホレイス•カレンの著作を読んでいる。この米国が堤未果「沈みゆく大国 アメリカ」になっていくのか。この問題には悩まされる。宇沢弘文が指摘した問題でもある。リベラリズム教育が弱い日本の高等教育において人は何故学ぶのかということをニュースクールの精神に戻って考えてみてはどうか。

研究員 花岡隆一

米国コロンビア大学コーチング•カンフェランス

コーチング研究所の番匠武蔵氏が10月にコロンビア大学で「システミック•コーチング」について発表した。  http://crillp.com/

基調講演は同大学のW.Warner Burke博士が「Learning Agility」について行った。「学習の俊敏さ」の要素は6つあり、Feedback Seeking/Performance Risk Taking/Collaborating/Experimenting/Flexibility/Speedであると言う。

私たちはこれまで主体的学びを促すアクティブ•ラーンニングについて考えてきたが、その中でブリガム•ヤング大学が提唱している「Community Engagement」(大学と社会の連携を意識したStudent Engagementであり、私たちは「大社連携」と命名している)を取り上げてきたが、Learning Agilityは変化が激しい社会への対応という意味を含んでおり、ここでつながった。

もうひとつの講演はCase Western Reserve大学のEllen B.Van Oosten博士で、会話と脳の活動という深い学びと浅い学びに関連するテーマで脳科学と結びついたコーチング研究であり。

今月発行予定の「主体的学び」ジャーナルで東大船守美穂先生(「反転授業へのアンチテーゼ」)は、知と向き合う空間と時間について説明している。この時の脳のメカニズムについて調べるのも興味深いと思う。

 

研究員 花岡隆一

『主体的学び』2号刊行予定!

HPの下段のニュースにもUPいたしましたが、

雑誌『主体的学び』2号が11月20日(木)刊行予定です。

本誌の特集は「反転授業がすべてを解決するのか」です。

春に刊行した「パラダイム転換―教育から学習へ、ICT活用へ―」から引き続き

よろしくお願いいたします。

東信堂およびamazonより購入可能になりますので、改めてHPでご案内させていただきます。

 

研究員大村昌代

講義収録アーカイビングと教育ビッグデータ (図書館総合展)

今年も図書館総合展が横浜で開催される。KADOKAWA・DOWANGOが注目である。川上量生会長は、「電子図書は紙媒体を凌駕するか?」という命題を立て、「本の存在感」を電子図書がクリヤーするのは時間と仕掛けが必要と言う。その答えが今年の総合展で見れるか? アカデミック分野での話題は何と言っても「アクティブ・ラーニング」である。MOOC3.0で反転授業用の映像教材が多数つくられることになるが、現在は教材制作に高価な費用がかかる。大学単体では賄えないので、協創時代の教材づくりとも言われている。

Academic Lecture  Capture分野では世界トップのMediasiteは、世界58か国、1250大学で、昨年度200万時間の講義をアーカイビングしている。それを視聴した学生は3000万viewという。毎日約10万回ほどの講義アーカイビングが学習されていることになる。この200万時間の講義が年々自動的につくられるということは脅威でもある。

MOOC3.0は学内の授業改革にフォーカスしつつある。MOOC2.0時代のビッグデータに加えて今後は学内のビッグデータも分析されて、次の教育改革の方向であるアダプティブ・ラーニングへの転換への期待もでている。こうした流れの中で、Mediasiteの200万時間というビッグデータは教育のビッグデータ活用への期待も広がる。

 

研究員 花岡隆一

「アカデミック・コーチング」日本発の教育イノベーション

菅原秀幸先生(北海学園大学 国際経営学)にお会いした。爽やかなスタイル、語りは熱い。「アカデミック・コーチング学」を世界に先駆け日本から発信している。

スタンフォード大学客員時代に、資質は同じでも学生の磨き方の違いが彼我の差を生むことを目の当たりにされる。それまでも温めていた研究課題に火がつく。「日本の学生の資質は決して欧米に劣っているわけではない。教育方法のイノベーションが必要。どのように? 学生が主体的になるための教育方法はないか? コーチというロジックをアカデミックな場で体系化できないだろうか?」

それが「アカデミック・コーチング」でした。菅原先生は信頼できる多くの仲間と伴に、20年計画で世界に「アカデミック・コーチング」を普及するために、日々クラスでの実践、評価、リフレクション、体系化を推進しています。研究会やワークショップなども開催しています。

主体的学び研究所も応援していきたいと考えています。

アカデミック・コーチング研究会 HP
http://academicalcoaching.org/

 

 

研究員 花岡隆一

宇沢弘文先生を偲んで

宇沢弘文先生が逝去された。ワルラス、ヒックスから多部門理論までを学んだ。シカゴ大学、スタンフォード大学でも一貫してリベラルでユマニズムを徹した先生は、成田問題、水俣問題など社会的な活動に入られて、所謂近代経済学の考え方を変えた。

宇沢先生は日本の高等教育に関しても厳しい提言をしている。日本の大学には真の意味の自由が存在しない。次代を担う人間が育つ環境ができていない。その理由は、ひとつが非人間的•非文化的な入試制度であり、このため大学の形骸化は進んでいる。もう一つは教授人事の自律性の欠除であると。今日でも態勢は変わっていない。文科省も大学も苦しんでいる。

研究員 花岡隆一

教育のビッグデータ取組みについて

MOOC研究のひとつとしてビッグデータを活用して学習成果につなげるための試行錯誤が始まっている。教育のパラダイムシフト、「教える」から「学習」への変革の中でMOOCの位置付けも多様化しているが、取り分け学習者中心(Student Engageent)の視点でビッグデータの収集解析が期待できる。

MOOCでは単元あたり多くのビデオ学習を行うが、例えばビデオのどこをどのぐらいの時間視聴したか、どのように学んだかがどのような学習成果につながっていると想定されるか、学習したカリキュラムの体系化と学習成果の関連、教材視聴とテスト学習の時間の割き方、ビデオ教材の作り方など学習ビッグデータの研究がICTの機能アップにもつながっていくと思われる。

MOOCを教室に取りいれることは既に高等教育から高校教育にまで広がってる。日本でも反転授業やハイブリッド教育として教員単位での取組みが始まっている。研究所でもこれらの調査をしているのでいずれ紹介できると思うが、2014年に実施した高校生の大学準備教育では700名のビデオ視聴とその学び方について分析した結果、15コマの授業ビデオに対して10時間以上の視聴学習をしている。最長は25時間という結果であった。この内500名からポートフォリオを提出してもらったが、「大学で何を学びたいか」「4年間でどういう成長をしたいか」を省察したことで、入学後の学びへの姿勢がより主体的になってきていると思われる。

今後さらに詳細なデータが積み重なっていくと学習者にとって必要な学習環境の整備も進んでいくはずである。

研究員 花岡隆一