主体的学び研究所

43 アメリカのリベラルアーツ・カレッジの現状

主体的学び研究所 顧問
土持ゲーリー法一

はじめに

  コラム41 コラム42では、「リベラルアーツとは何かを問う」と題して、アメリカの伝統的なリベラルアーツ・カレッジの事例を取り上げることにした。その意図するところは、最近、リベラルアーツに関する動画を配信している「リベラルアーツプログラム for Business ~ビジネスに生きる新時代の教養を学ぶ」のコマーシャルに触発され、リベラルアーツは動画だけで学んで「満足」するようなものでないと「警鐘」を鳴らしたかったからである。
 本コラム43で紹介するように、基本的には、大学のカリキュラムを通して教授と学生とのコミュニケーション、学生同士の議論の中から自然に培われるものでなければないと考えている。しかし、この動画は「ビジネスに生きる新時代の教養を学ぶ」と題していることから、新たなリカレント教育の可能性を示唆している。すなわち、動画を見た後のフィードバックあるいはディスカッションがそうである。「主体的学び研究所」は、そのようなリベラルアーツに関する議論の場を提供したいと考えている。インプットだけでなく、アウトプットこそが、リベラルアーツの「本命」であることを知ってもらいたい。
 本コラムでは、37年の歴史を誇る U.S. News & World Report「大学ランキング」
( https://www.usnews.com/best-colleges )から、最新のアメリカのリベラルアーツ・カレッジの現状を紹介する。


 U.S. News & World Report は、アメリカの学士授与機関1466校を対象に17の指標に基づいて評価されるもので、アメリカの大学の動向の指標となっている。
 リベラルアーツ・カレッジ(Liberal Arts College)と呼ばれる大学は、アメリカ全土に600校ほどあり、いずれも学生数は500~3000人規模の私立大学を指すことが多い。なぜ、学生数を殊更に強調するのか、もちろん質の高い教育を提供するには、教員と学生数の比率が重要なファクターになる。これに関連して、30数年前に長女が東部メリーランド州ボルチモア郊外のガウチャー・カレッジ(Goucher College)に入学したとき、当時の学長に小規模にする理由を尋ねたことがある。学長は、1000人くらいの数でないと学生のファーストネームが覚えられないからと笑いながら答えてくれたことを思い出す。すなわち、学生にとって教員との比率が低いだけでなく、学長にとっても別の理由で「小規模」の大学が望ましいということになる。
 本コラムでは、Crimson: The 10 Best Liberal Arts Colleges in the US (2021)(2021年8月24日)( https://www.crimsoneducation.org/jp-en/blog/campus-life-more/what-is-the-top-liberal-arts-college-in-the-us/ )に掲載された記事を参考に紹介する。

リベラルアーツ・カレッジとはどのような大学か

 リベラルアーツ・カレッジは、リベラルアーツ教育を提供するためにデザインされたカレッジのことである。リベラルアーツ教育には、他の一般の大学には見られない特徴がある。たとえば、典型的な特徴は学生対教員の比率が低く、多くはイギリスのオックスフォードやケンブリッジのチュートリアルシステムを模倣しているところにあると言われる。また、少人数制であることから、学生や教員間の結束力が他の一般のアメリカの大学よりも高い。
 リベラルアーツ・カレッジは、一般的に総合的な知的向上に重点を置いた教育を行い、人文科学、芸術、文学、ライティング、哲学、社会学、創造芸術、自然科学および社会科学を中心としたカリキュラムを提供している。リベラルアーツ・カレッジの学生は説得力ある議論の方法、問題解決方法、効果的コミュニケーションの方法などを学ぶ。大半のリベラルアーツ・カレッジの学位の50%以上が芸術と科学の分野で授与される。
 アメリカ大学協会(The Association of American Colleges & Universities)は、リベラルアーツ教育を「仕事や市民生活、人生にとって不可欠な特定の学習成果を育成するために、カリキュラムや共同カリキュラム、学術的学習と体験的学習の間の統合を促進する学部教育へのアプローチ」と定義づけている。また、同協会は、リベラルアーツ教育が「社会的責任、コミュニケーション、分析、問題解決能力など、すべての主要分野にまたがる強力な知的・実践的スキル、実社会で知識やスキルを応用する実証的能力を育成する」ことを重視すると述べている。


リベラルアーツ・カレッジと一般の大学との違い

 一般大学とリベラルアーツ・カレッジの大きな違いは、「専門性」にあると言われる。大学では通常1年目に専攻を決め、単位もその専攻に合わせて取得する。リベラルアーツ・カレッジの場合、多様な分野について学び、総合的な教養を身につけることに多くの時間を費やす。たとえば、リベラルアーツ・カレッジと大学との主な違いは、以下のようである。
 授業料  一流のリベラルアーツ・カレッジは、他の一流の大学より約1万ドル多く費用がかかる。これは、小規模な大学ほど学生一人当たりのリソースが豊富なためである。また、小規模で親密なキャンパスであることにより多くの教授陣と接することができる。
 クラスの人数  一般的な大学では、1年生と2年生が数百人の学生と一緒に授業を受けるため、教授と学生の強い結びつきが阻害されることがある。リベラルアーツ・カレッジは少人数制クラスなので教授と接する機会も多くなる。
 課外活動  大学でも、リベラルアーツ・カレッジでも課外活動はあるが、著名な大学ほどクラブがあり、多様性があり、リソースも豊富である。さらに、大規模な大学では、競技スポーツの機会が多く提供される。
 次に、U.S. News National Liberal Arts Colleges のランキングにもとづき、アメリカのリベラルアーツ・カレッジのトップ10について概観する。
  1.Williams College       Williamstown, Massachusetts(1位)
  2.Amherst College       Amherst, Massachusetts(2位)
  3.Swarthmore College     Swarthmore, Pennsylvania(3位)
  4.Pomona College       Claremont, California(4位)
  5.Wellesley College       Wellesley, Massachusetts(4位)
  6.Bowdoin College       Brunswick, Maine(6位)
  7.Claremont McKenna College   Claremont, California(6位)
  8.United States Naval Academy   Annapolis, Maryland(6位)
  9.Carleton College       Northfield, Minnesota(9位)
  10.Hamilton College       Clinton, New York(9位)
 以下が、それぞれのカレッジの教育の特徴である。

1.ウィリアムズ・カレッジ(Williams College)
 ウィリアムズ・カレッジは、マサチューセッツ州西部とコネティカット州北西部に位置する魅力的な田園地帯、バークシャー(Berkshires)にある。1793年に設立されたこのリベラルアーツ・カレッジは、言語・芸術、社会科学、科学・数学の3つの学術部門を擁している。これらの部門には25の学科、36の専攻と特別プログラムがある。
 ウィリアムズ・カレッジは、有名なチュートリアルや研究プログラムなど、ユニークな機会を提供している。また、オックスブリッジ(註:イギリスのオックスフォード大学とケンブリッジ大学の併称)のチュートリアルの雰囲気を真似て学生は少人数制の授業を受け、週に一度、二人一組で教授と面談をする。


2.アマースト・カレッジ(Amherst College)
 アマースト・カレッジは、マサチューセッツ州にあるリベラルアーツ・カレッジである(註:日本との関わりも深く、内村鑑三や新島襄が学んだことでも知られる。新島は、ここでの経験を生かして同志社大学を創設した。内村の名を冠した奨学金もある)。アマースト・カレッジは、コアとなる科目を必要としないオープンなカリキュラムを提供しており、学生は自由に学際的な専攻をしている。
 1821年に設立されたアマースト・カレッジは、アメリカで最も包摂的(インクルーシブ)な大学の一つとして知られている。学生の50%近くが女性で、45%が有色人種である。
 アマースト・カレッジの設立は、ウィリアムズ・カレッジの当時の学長ゼファニア・スイフト・ムーアによる移転の試みであった。この2校は、共通の歴史、地理的近接性、類似性からスポーツ、学問、名声の覇権を争う熾烈な競争相手となっている。
 アマースト・カレッジは5大学コンソーシアムに加盟しており、学生はマウント・ホリヨーク・カレッジ、スミス・カレッジ、ハンプシャー大学、マサチューセッツ大学アマースト校の授業に参加することができる。


3.スワースモア・カレッジ(Swarthmore College)
 スワースモア・カレッジは、フィラデルフィア郊外に位置し、ウィリアムズ・カレッジと同様のリベラルアーツ学業条件を備えており、学生は大学の3つの部門(人文科学、自然科学と工学、社会科学)からそれぞれ少なくとも3科目を履修する必要がある。
 スワースモア・カレッジは、ABET認定(註:ABET とは Accreditation Board for Engineering and Technology の略で、アメリカの技術者教育認定機関でこの分野でもっとも古い歴史を持つ教育プログラム認定の老舗である)の工学プログラムを持つ唯一のトップクラスのリベラルアーツ・カレッジのひとつで、学生に工学のBS(理学士号)を授与している。このプログラムは、エンジニアとして必要な技術的スキルと工学がもたらす広範かつ総合的な理解を身につけさせることを目的としている。
 フィラデルフィア地域大学からなるクエーカー・コンソーシアムの一員として、スワースモア・カレッジの学生はペンシルバニア大学、ブリンモア・カレッジ、ハーバーフォード・カレッジの授業を相互履修することができる。


4.ポモナ・カレッジ(Pomona College)
 ポモナ・カレッジは、カリフォルニア州ロサンゼルス東部の郊外クレアモントに位置し、南カリフォルニアに「ニューイングランド・スタイルのカレッジ」を再現しようとリベラルアーツ・カレッジのムーブメントの最初のカレッジとなった。現在、クレアモント地域には、スクリプス・カレッジ、クレアモント・マッケナ・カレッジ、ハーベイ・マッド・カレッジ、ピッツァー・カレッジなど、4つのリベラルアーツ・カレッジがある。ポモナ・カレッジや他のクレアモント・カレッジに通う学生は、他の4つのカレッジにクロスエントランスでき、最大で50%の授業を受けることができる。
 ポモナ・カレッジは、東海岸のリベラルアーツ・カレッジのライバル校の主要な特徴の多くを維持しつつ、西海岸風にアレンジしたものである。学生は、専攻や副専攻のコア要件に加え、1年次に批判的探究セミナー(First-year Critical Inquiry Seminar)、広域な学問(Breadth of Study)分野コース、外国語、2つの体育コース、集中ライ
ティングコース、集中スピーキングコース、相違分析コース(Analyzing Difference Courseコース)を履修しなければならない。


5.ウェルズリー・カレッジ(Wellesley College)
 ウェルズリー・カレッジは、マサチューセッツ州ボストン近郊のウェルズリーにあるリベラルアーツ系の私立女子大学である。
 ウェルズリー・カレッジは、「セブン・シスターズ・カレッジ」のメンバー校の一つである。他のメンバーには、バーナード・カレッジ、ブリンモア・カレッジ、マウント・ホリヨーク・カレッジ、ラドクリフ・カレッジ(現在はハーバード・カレッジの一部)、スミス・カレッジ、ヴァッサー・カレッジ(現在は男女共学)などがある。
 この歴史的なリベラルアーツ・カレッジ群は、女性に大学のリベラルアーツ教育を提供した最初の大学の一つである。アイビーリーグを含む他のほとんどのカレッジが男性専用だった時代に、機会均等の光となった。現在、ラドクリフ・カレッジは、ハーバード・カレッジに吸収され共学となったが、セブン・シスターズは事実上、全米でもトップクラスのリベラルアーツ・カレッジとして君臨している。
 ウェルズリー・カレッジでは、MITおよびオーリン・カレッジ工学部とデュアルディグリープログラムを提供していて、学生はウェルズリー・カレッジで学士号を取得すると同時に、これらの大学で理学士号を取得することができる。また、MIT、バブソン大学、オーリン大学、ブランダイス大学など、ボストン地域の他の大学とも相互履修できるプログラムを提供している。
 余談になるが、ジュリア・ロバーツ主演の映画『モナリザ・スマイル』は、ウェルズリー・カレッジをモデルとしたことでも有名である。

https://www.b-cafe.net/cinema/2015/01/%E3%83%A2%E3%83%8A%E3%83%AA%
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6.ボードイン・カレッジ(Bowdoin College)
 ボードイン・カレッジは、メイン州ブランズウィックのニューイングランド沿岸の町、207エーカーの敷地を有し、「賢明で、親切な若者に地球上で最高の教育を受けさせれば、世界に最良のものを生み出すことができる」と考えている。同大学は、世界水準のリベラルアーツ教育を提供し、学生が自主的に考え、行動し、社会的責任を認識するよう促している。学生は互いに競い合うのではなく、協力して最良の解決策を見出すことができる。学生は、科学、人文科学、社会科学、芸術など、さまざまな分野を選択することができる。


7.クレアモント・マッケナ・カレッジ(Claremont McKenna College)
 クレアモント・マッケナ・カレッジは、ロサンゼルスのダウンタウンから東にわずか35マイルのところにある。サンゲーブル山脈の麓に位置するこの学校は、クレアモント・カレッジとして知られる7つのカレッジ・コンソーシアムの一校である。この7校には、スクリプス大学、ポモナ・カレッジ、ハーベイマッド大学、ピッツァー大学、クレアモント大学院大学、ケック応用生命科学大学院大学などが含まれる。元々は男子校であったが、1976年に男女共学になった。
 リベラルアーツ・カレッジは、主に学士課程教育に重点を置いているが、クレアモント・マッケナ・カレッジでは金融に関する修士課程も提供している。また、10の著名な研究所があり、学生は大学院レベルの研究を行うことができる。


8.アメリカ海軍兵学校(United States Naval Academy)
 アメリカ海軍兵学校(USNA)は、メリーランド州アナポリスにある338エーカーの広大な敷地にある名門校である。海軍兵学校は、5つある連邦軍の士官学校の中で2番目に古く、ミッドシップマンと呼ばれる学生をアメリカ海軍の士官に養成する学校である。USNAは、卒業後の現役勤務と引き換えに大学教育の費用を負担する。
 海軍士官学校と聞けば、リチャード・ギア主演『愛と青春の旅立ち』(1982年)の映画を思い浮かべる。これは日本語のタイトルで、原題は An Officer and A Gentleman である。

https://www.allcinema.net/cinema/160

 次号以降で取り上げる、江田島海軍兵学校のモットーも「紳士たれ」であったことから、士官でありながら、ジェントルマンシップが求められた所以である。
 USNAの専攻は分野によって異なり、3つのカテゴリーにグループ分けされている。工学・兵器部門、数学・科学部門、人文・社会科学部門である。USNAの卒業生は全員、それぞれの分野でBS(理学士号)を取得する。


9.カールトン・カレッジ(Carleton College)
 カールトン・カレッジは、ミネソタ州ノースフィールドの955エーカーの田園地帯に位置し、約40の学士課程専攻を提供している。カールトン・カレッジの授業の大半は、20人以下の人数で行われている。カールトン・カレッジで最も人気のある専攻は以下の通りである。
  社会科学
  物理科学
  コンピュータ・情報科学とサポート・サービス
  数学と統計学
  生物・医科学
 学問の厳格さ(Rigorous Academics)、知識人、ユーモアのセンスで知られるこの私立大学は、19の大学対抗のスポーツチームと独創的な名前と刺激的な歴史を持つ170以上の学生団体を擁している。カールトン・カレッジのキャンパスには「グッドセル天文台」があり、3つの歴史的な望遠鏡と多くの最新望遠鏡を備え、年間を通して授業で使用することができる。


10.ハミルトン・カレッジ(Hamilton College)
 ハミルトン・カレッジは、ニューヨーク州アルバニーから西へ90分、クリントンにある。ニューヨークで3番目に古い歴史を持つハミルトン・カレッジは、1978年に姉妹校であるカークランド・カレッジと合併するまで男子校であった。
 ハミルトン・カレッジの学生は、アカデミック・アドバイザーの指導のもと、自由なカリキュラムで学問の道を切り開いた。また、教室でのプロジェクトや学生主導のディスカッションを通じて、批判的に考えることを学んでいる。ハミルトン・カレッジでは、多くの学生が留学プログラムやコンソーシアムプログラムを通じて、スペイン、インド、フランスなどの海外に留学している。


おわりに

 リベラルアーツ・カレッジ全米ベスト10のランキングを概観した。これらは、詳細なデータにもとづき、毎年、熾烈な競争下に置かれている。今回紹介したベスト10のカ
レッジの評価には同点も見られ、互いに拮抗している。なぜなら、授業を履修した卒業生の評価が直接に反映されるからである。日本の大学のようなピラミッド型は存在しない。日本では偏差値にもとづくランキングが注目されるが、アメリカでは何をどのように学んだか。インプットではなく、アウトプットがより評価の対象になっている。したがって、どのキャンパスでも学生が伸び伸びと学んでいるという印象を受ける。
 カレッジのランキングを紹介するなかで、田園都市やキャンパスの広さが殊更に強調されているように、学びには「空間」が必要である。日本では、最近、「都市型」大学の人気が復活しているのとは対照的である。また、ベスト10にランクされる大学は、近隣の大学とのコンソーシアムや単位互換、ダブルディグリーの取得までをも可能にしている点は注目に値する。これはリベラルアーツのモットーである「横」のつながりが重視されている証である。
 「8.アメリカ海軍兵学校」のように、海軍兵学校がリベラルアーツ・カレッジ全米ベスト10にランクされるのは驚きであり、これをリベラルアーツ・カレッジのカテゴリーに含むのもアメリカ的である。最近、サンディエゴを訪問して、市内のミッドウエイ空母博物館を見学した。目のあたりにした空母は巨大であり、艦上の滑走路はアメリカンフットボール場の2倍の長さである。このような空母の上官になるのが、アメリカ海軍士官学校卒業生であると思わせる雰囲気が漂っていた。世界中からの観光客で賑わった。中でも誰もが注目するのが、艦上に展示されたトム・クルーズ主演『トップガン』で使用されたトムキャットである(写真参照)。

 余談になるが、アメリカの大学を訪問して驚くのは、大学のランキングについて尋ねると自分の大学が「一番」だと誰もが答える。自分の大学やカレッジに誇りを抱いている証である。これがリベラルアーツを育む土壌なのかも知れない。日本ではあまり考えられないことである。日本では東京大学を頂点にそこからどのくらい離れている位置にあるかで答えるのが常である。

(2023年4月14日)
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