主体的学び研究所

アクティブラーニング授業見学(藤崎竜一先生の救急救命士コース授業について

アクティブラーニング授業見学(藤崎竜一先生の救急救命士コース授業について

秋も深まりつつある10月末、帝京板橋キャンパスで行われている藤崎竜一先生(医療技術学部スポーツ医療学科救命救急士コース、医学部救急医学講座・ER)の授業を見学させて頂く。「眠らない授業」「命の授業」というタイトルで呼ばれている。授業設計の意図については事前に論文を読んでいる。

13時15分から演習を含めて16時30分に終了した授業は、これまでに経験したことがない、「アクティブラーニング」であった。学習者が学びへの主体的を自ら喚起せざるを得ない授業設計になっている。その最大の秘訣は授業そのものを学習者(学生)が作っていくからである。従って、学習者の意思で授業はどのようにも変化する。学習者は常にグループで思考し、行動するのだが実はこのグループの中で個人の葛藤が生まれている仕組みがある。グループ間でのピアー学習とグループ内個人間でのピアー学習が埋め込まれていることは、シラバスと授業評価の方法を見ると明らかになる。後述するが、評価データにLA(Learning Analytic)を用いて全員の学習プロセスを観察して次のステップへつながる支援をしている。これには驚いた。

繰り返しになるが、学生が自ら授業をつくり、その評価を自ら作るテストで学びの確認をしていくという授業で、どうして眠ることなどありえようか。45時間は予習・復習を含めての時間であると言われるが、この授業は参加した時から生活そのものが授業に張り付くのである。授業設計のシナリオライター、プロデューサー、プレイヤー、聴衆、そして評論(審査)員になるのであるから面白くて仕方がない。次回はどんな学びを創出するか。自分は足場かけ(Scaffolding)しているだけで、むしろ自分が学生から学ぼうと思って授業に出ていると、藤崎先生は語る。授業前に自分の血を採取して教室に持ち込むのも、リアリティの学びをしたいからである。

授業風景を少し記述する。今回は少し難解な「動悸」を学ぶ授業で、6グループが別々のテーマに取り組む。洞不全症候群、心房細動、心室瀕拍、房室ブロック、期外収縮、心因性瀕拍と「動悸」を関連づけて、患者の観察―病症の想定―対応などをチームとして結論づけていく。(テーマの全体は前回に与えられているが、どれに当たるかは当日まではわからないので全部予習する必要がある)因みに、藤崎先生は救急救命士コースの学生に医学的知識に関しては医師のレベルを要求する。(傷病者の発生から救急搬送までであったのを、傷病者の発生から入院(治療:(医師としての対応))まで入るように学生へのプレッシャーのレベルを上げていくなど)冒頭に藤崎先生の体験をいれた医師としての解説をする。

各グループは6-8名で構成されるが面白いのはグループ内で議論を重ねるために教室を出てキャンパスのいろいろなところに行く。例えば図書館、空いている教室やスペースなど。1時間のこのグループ内での学習がまさにコアとなっていく。学生同志の学びである。リーダー、サブリーダーが自然と育っていく。

藤崎先生は6つの離れ離れになっているグループを2回巡回する。フロアーも違えばいろいろな場所を学生は見つけるのでこの巡回は大変である。最初はどういう議論をしているのか、初歩的な疑問がないかなど対話する。そこで大きな方向性に間違いがないかを確認している。2回目は終了間際で、この時には殆どのグループの学生は自信ありげな「先生、面白い発表をやりますよ」という顔をしている。この2回の巡回は教師の足場かけとしてとても重要である。教師と学生が一体となる時でもある。

議論の時間が終わり、いよいよ各グループの発表である。発表形式は自由であるが、それぞれリアリティを持ったストーリーを作っている。その中で与えられたテーマへのチームの考え方を提示する。日本の学生も変わったなと思うのは真剣な発表の中に、必ずユーモアや笑いをいれるのである。これがまたやる気を促進するのだと思う。患者、救急救命士、救急センター(藤崎先生が担当)がそれぞれの役割の中で提起された問題へチームとしての提言をする。救急救命士とセンターとの対話が極めて重要な授業プロセスとなる。もうひとつ重要なことがここで行われている。これがオンリーワンの評価方法である。グループ発表に際して視聴している他のグループは採点をしているのである。教師が採点するのではなく学習者が採点する。(教師の採点も別にあるが)評価項目は、症例内容、全体の構成、発表技法、話し方、医療人(救急隊他)の対応、診断・評価理由、アドバイスなどから構成されている。

授業終了前に、小テストとグループ採点が行われる。小テストは個人の学びの結果であり、グループ採点は評価者として力量が問われるある意味でのテストでもある。LAについてであるが、グループ採点(1-5)では例えば1(=ルーブリックでは全く理解できていない評価)をつけるグループがいる。これは自グループを上位にしたいという意図的なものと考えられるので統計的にデータを取り、是正するのである。また各グループでテストの設問をつくるが、この回答率が6-70%のものを作ったものが評価の上位にいく。これも現実を想定した学習であり、救急救命士としての現場で判断が微妙に迷うエリアの設問を基礎的にしっかり身につけるという意図がある。

さて藤崎先生の「眠らない授業」「命の授業」の1期生が今年卒業して社会に飛び立った。大社連携(大学と社会のつながった学び)を提唱する同氏は藤崎教室の学習者が継続して社会で学び続けることを心より願っている。科学的根拠に基づく医学でもいろいろな視点での答えがあるといいます。大学では、「結論を導き出す方法論を学んでくれればよい。社会での継続した学びのために。」藤崎先生が最後に言われた言葉である。

(感想)
帝京大学医学部救急医学講座の医師として救急救命士コースを独自の感性で築いた。教育工学などは特に学んでいないのであるが、学生に寄り添い何とか一流の社会人になって欲しいという気持ちが、学生に伝わっているので学生が友達のように教師に話しかける。今学ばないでどうする、という熱い気持ちだけでなく、学びたくなるような環境をよく考えたと思う。主体的に学ばない学生をどう主体的にするか? という設問はよく話されるがその答えのひとつが藤崎流の授業であると思う。

 

主体的学び研究所
花岡隆一

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