主体的学び研究所



故 小篠 洋一 名誉顧問(初代所長)を偲んで

 弊研究所の初代所長である小篠洋一名誉顧問が去る2021年8月15日に永眠しました。主体的学び研究所を設立し、多大なる貢献について感謝するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。

 今から10年ほど前に、初めてお目にかかったときの印象としては、「一を聞いて十を知る」まるで仙人のような方だと感じました。穏やかな話し方で、何事にも丁寧にご説明くださいましたが、同時にこちらの未熟さや至らなさを全て透かして看破されているようにも感じる方でした。

 普段は恐れ多く、質問をすることをためらうことがありました。ある時、意を決して、次の様な質問をさせて頂きました。「仮に全知というものがあるとして、今の人類はその全知に対して何%くらい知ることができていると思いますか?」 その質問に少し考えてから「人類が成長し学ぶにつれて、その全体が成長するので、分母が発散していると思う」というようなお返事だったかと記憶しております。その時だけではないですが、いつも通り、流石だと感服するとともに、自分の浅はかさを痛感いたしました。

 小篠さんが、晩年、研究所を離れてからのことです。私は、小篠さんの東京大学時代のご学友にお会いする機会がありました。「小篠君は東京大学の講義中に一切ノートを取っているところを見たことが無い。にもかかわらず成績はいつも上位で、こんなにもすごい人が世の中にいるのだと感心していた」とその方がおっしゃっていました。その話を本人に確認したところ「私は不器用なんです。一つのことしかできないので、聞くことと、書くことを同時にできない。だから書くことを諦めて聞くことに専念することにした」とおっしゃいました。普通は聞いただけでは覚えきれないので記録を残すのですが、やはり類まれなる能力をお持ちなのかと思うエピソードです。

 2016年4月に私は2代目の所長を引き継ぐ形となりましたが、この様な偉大な方の後任として、未熟な私には到底務まるものではないと、恐縮する思いでおりました。一方で、知的好奇心や特に「主体的学び」というフレーズに、とても心を惹かれ、やってみたいという気持ちが勝り、現在に至っております。この研究所は故人が残してくれたとても貴重な財産であり、次の世代に残していく責務を果たさなければならないと、決意を新たにいたしました。

 十分に感謝の言葉を申し上げられないままのお別れとなりましたが、研究所一同、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

主体的学び研究所 所長 重田 拓緒