主体的学び研究所

『主体的学び』を促すゲーリー先生の“Connecting the Dots”コラム

14. 「コロナ禍でのICEルーブリック研究会(2)」

 主体的学び研究所 顧問
土持ゲーリー法一

はじめに

 2020年8月1日(土)のICEルーブリック研究会は、2020年6月20日(土)の議論を受けて、カナダ・クイーンズ大学教育・学習センター長スー・ヤング博士のビデオメッセージをもとに各セッションに分かれて議論した。ヤング博士はICE開発者の一人である。ビデオメッセージは内容が豊富であったが、筆者にとってとくに印象的だったのは、下記の図表「アセスメントタイプを意図した学習に合わせる」であった。図表は見方や捉え方で意味合いが違ってくるが、以下は筆者の「私論」だと思って読んでいただければ幸いである。

アセスメントタイプを意図した学習に合わせる

 ヤング博士のメッセージビデオは、ICEを考えるうえで示唆に富む内容であった。これまでにないICEの「進化」と「深化」を感じた。これまでICE動詞が注目され、ICE領域において学習者がI、C、Eの関連動詞から選択することで主体的学びを引き出すことになる有効なツールだと紹介した。今回は、さらにI、C、E領域を象徴する代表的な「サンプル」をリストアップした。ヤング博士によれば、クイーンズ大学教授らはこの図表がICEとは何かをわかりやすく説明していると評価されているとのことであった。

サンプルはあくまでも「目安」

 これまでどのようなものがICE領域のサンプルになるのか手がかりがなかったが、上記の図表でイメージができるようになった。「イメージ」としたのは目安という意味である。たとえば、図表のI(アイデア)の「レポート」は、CでもEでも使える可能性があるということである。これはマインドマップ(コンセプトマップ)についても同じで、IでもEでも使用可能ということになる。

ICEは「指導のみならず、評価にも役立つ」

 ICEルーブリックは「評価のみならず、指導にも役立つ」というのが、ICEルーブリック研究会の考えである。ヤング博士のビデオメッセージの特徴はICEについてのものがほとんどで、残念ながら、ICEルーブリックについては多くを言及しなかった。本来なら、図表のICE下段のところは各ICE領域の評価基準を記述するところであるが、ICEのサンプルのみに留まった。
 ヤング博士のICEの考えは「指導のみならず、評価にも役立つ」という立場のように見える。ヤング博士は、常々、周到に指導すれば、評価は自ずとついてくるものとして、Pass-fail(合格か不合格かの評価)で十分だとの考えを示した。これは「評価」を英語のEvaluation と考えるか、Assessmentと考えるかの違いである。

E「エクステンション」

 多くのICE研究者は、最後のE「エクステンション」のところに関心がある。たとえば、図表の「キャップストーンプロジェクト」などは、エクステンションを代表するサンプルと思われる。E領域はIとCとは違って、学習者が教員の手から離れて独自の学びを実践するところで、アセスメントから評価に移行するところではないかと筆者は考えている。

素朴な疑問

 ヤング博士の図表に従って、ICEルーブリックを作成しようとすると素朴な疑問が生じる。たとえば、E領域の「キャップストーンプロジェクト」について考えてみたい。この場合、IやCの領域をどのように評価すれば良いのだろうか。この疑問に対して、ヤング博士が次のように筆者に回答している。「とくに、ICEが直線的(Linear)ではなく、繰り返す(Recursive)ものであることを理解していない場合、図表を誤って解釈する可能性があります。 同じことが、『コネクション』にリストされた評価戦略(Assessment Strategies)についても考えられます。」また、「E領域でのアセスメントが設計されている場合でも、すべての学生がE領域を実証できるとは限りません。」ヤング博士からの回答については、次の「スパイラル」図表で考えると分かりやすいかも知れない。

スパイラルアップ

おわりに ポストコロナ時代の「ニューノーマル」

 熊本大学教授システム学研究センター長鈴木克明氏は「実践的遠隔授業法」と題して、『IDE 現代の高等教育』No.623「経験してみた遠隔授業」(2020年8-9月号)で、ポストコロナ時代の「ニューノーマル」について言及している。多くの教員はオンライン授業を経験して、対面授業が良かったと考えているかも知れない。しかし、鈴木氏は「コロナ前の大学教育がそれほど良いものだったかといえば、実は必ずしもそうではなかった。多くの授業はちゃんとデザインされていなかったし、効果的でも魅力的でもなかったし、そして何よりも無駄が多すぎた」と述懐している。そのうえで「講義は過去の教育形態」という時代にすでに突入したと述べ、「自分たちの元の授業に戻りたい」との逆戻りはできなくなった現状に省みて、「いろいろなことを変えていく」ことで「ニューノーマル」をデザインしたワンランクアップの教育の質向上を目指すことを提言している。オンライン授業も新たなノーマルの時代になると予測をしている。

(2020年9月4日)