主体的学び研究所

2014年

『反転授業』と『反転学習』

Flipped Classroom/Learningを反転授業と訳しているが、反転学習は別であるという解釈がある。反転授業はあくまでも授業=教室をどう改善するかという授業法のひとつであり、反転学習は例えばMOOCsのような高いレベルでの自学自修を可能とする学生を対象にしたものを言う。

この秋に出版予定の『主体的学び』ジャーナルの特集は「反転授業ですべては解決するか」という興味ある論文集です。実際の教育現場で実践されている『反転授業』や『反転学習』の調査研究を期待ください。その中で、改めて協調学習での主体的学びの在り方についても問題が提起されている。

反転授業はアクティブ•ラーニングを促進するためのひとつの授業方法として実践されているが、目的が明確でない安易な反転授業はむしろマイナスになるという指摘を考えたい。

研究員 花岡隆一

企業トップのアクティブラーニングの実践

800社のexecutiveにコーチングをしている会社がコーチエイである。ビルゲイツもエリックシュミットもカルロスゴーンも皆コーチがいる。企業の収益の40%はトップの責任というのが欧米では当たり前になっている。トップ自らがアクティブラーニングを実践してこそ企業の成長が保証されるのである。

トップのアクティブラーニングの内容は明確である。組織内での関係性の向上:トップであれば経営幹部一人ひとりと1.5時間/週以上会話しているか。組織内でのコミュニケーションの実践や組織を越えるコミュニケーションの実践。即ちお客様訪問を誰よりも多く実践しているか。これを経験的にマスターしていくのが企業トップのアクティブラーニングであるという。

以下、明確なビジョンの発信、他人の話を聞く、自分の力量の限界認識、新しいものへの挑戦心となる。コーチングの役割は、executiveたちが忘れてしまうこれらの省察を促すことである。
コーチエイの伊藤守代表は、いい会社は何も意識しなくてもみんなが自由に発言している状態を常に維持しているという。

研究員 花岡隆一

ブリガムヤング大学(BYU)の語学学習に思う

この程、BYUの語学研修の現場を見学した知人よりその極意は、どこの言葉を習得するにもまずその言葉で記述されている名文を諳誦することから始めると聞く。

日本だけが学校教育で書き言葉を生きたものとして身につける鍛錬をやらない。文章は第三者、複数の人を意識して書くが、欧米人は会話においても書くように話しているという。会話の表現がユーモアや笑いを自然に取り込めるのは目の前の相手との関係だけでなく、第三者をいれる余裕をもっているからで、それが書くように話すということである。

漢字は名詞中心の思考であり、「どのように考える」「どう考える」というプロセスを考えることが不得手であるため深い考えができにくい。同じ漢字文化の中国では、漢字の組合せにより(配置)、様々な動きが出来て、多様な表現ができるという。唐詩などを読むと良く解るそうだ。(知人の中国人から)カナダで実践されているICEでは動詞を上手く使うことでプロセスの思考をもたらす。

外国語を生きた言葉として学ぶのは書き言葉を諳誦することというBYUの方法は裏付けがあると感じた。

 

 

研究員 花岡隆一

「反転授業」様々

「反転授業」ばやりである。「主体的学び」次号は「反転授業」について様々な視点で考えてみたいという企画を考えている。先日のICEDでは、「反転授業は全てか?」という問いかけもでた。実践的な検証、教育工学的な検証などが国内外で行われている。武雄市のスマイル学習(反転授業)などを含めてこうした取組みをご紹介できればと考えている。

土持ゲーリー法一先生の考えは:
アクティブ•ラーニング(主体的学び)は、習っていないことを考える力と言うこともできる。不可能を可能にするという言い方もできる。反転授業はそのきっかけである。上手に反転すると学生に火がつく可能性がある。そうなると、ついた火を燃やしてあげなければならない。だから対面授業がとても重要になる。ところが不完全燃焼で終わってしまう授業が多い。反転すれば学生が主体的に学ぶという幻想は捨てなければいけない。

「主体的学び」次号は10月に刊行予定です。

研究員 花岡隆一

「こども大学」の取組み

こどもたちの夢の選択肢を増やしたい、そのために、自分たちの夢へとつながる学問を、企業や大学の先端的研究にも触れながら提供していきたい、という思いの人が集まりました。この取組みを「こども大学」(任意団体)として開催しています。カリキュラムは、企業や大学のCSRやアウトリーチ活動として構成されます。分野は、医療、環境、エネルギー、宇宙、地球、IT、情報、芸術、音楽など様々で、それぞれが学部として開講されます。(新産業文化創出研究所)

これまで、古代食、エコカー、メタンハイドレード、古代氷、南極料理、国際惑星地球年、世界天文day、宇宙食、キャラ弁当、ジオ鉄などのクラスに多くのこどもたちが参加してきました。

昨今、教育CSRはCSV(Creating Shared Value)と一体化しているという考えがあります。コーポレートマーケッティングは地域、社会、市民との連携なくしてはありえません。こどもたちとの共通言語つくりは「次世代学」として必須です。こどもを通じて未来が見えてきます。学校教育と社会とのつながりの問題は教育の永年の課題です。こどもたちが専門分野に出会ったとき突然ミスマッチングに気がつくことがないように、オープンキャリキュラムを小さいときから触れていることはとても大切です。

8月9日(土) 10:00開講(無料)秋葉原UDX4F
こども大学医学部サマースクール
主催:AKIBA Cancer Forum 2014 実行委員会

研究員 花岡隆一

栗田泰幸氏が語るこどもたちの夢

栗田泰幸氏は、クラッシック音楽業界では熱いプロデューサーです。指揮者として世界の頂点にいる小澤征爾氏と一緒にサイトウ•キネンを長い間、育ててきました。そして今、世界的なピアニストの小山実維恵さんと音楽等を通じてこどもたちの夢実現にむけて活動をしています。お話をお聞きして、こどもたちが主体的に学べる環境つくりと共通していると感じました。栗田さんは、こどもの創造力や感性をとても大切にしています。辛抱強く信頼関係を築くことから始めています。

主体的学び研究所も次世代のこどもたちに何を伝えるかを考えています。「こども大学」への参画も検討しています。産業界では最近教育のCSRが重視されていますが、まだ普及していません。CSVとCSRが同じ視点から考えられるようになりつつはあります。「こども大学」は廣常啓一さんの活動ですが、多くの人に支えられています。

それぞれの分野で実績をあげてきた人が必ず社会に還元したいと考えるのが、こどもたちとの繋がりです。南研子さん、川村忠晴さん、伊藤ふさみさん、山口みちよさん、辰巳芳子さん、加藤登紀子さん−−−−。懐かしい香りがします。こうした様々な活動がどこかで交わってくれることを楽しみにしています。

研究員 花岡隆一

改めて思う学びの原点としての「ICEモデル」

高校生の入学準備教育の受講者によるポートフォリオで、高校と大学の違いについての様々な気づきや4年間の学びへの期待を述べている。ここでは反転授業を実施したが、特に生徒同士での学び合い(協調学習)を初めて経験した受講者から、大学での学びへの思いが伝わる。

ジョン•デューイによると、協調学習がない授業は子どもたちにとって大人以上に退屈である。子どもが自然と協調して体験的学習をすることに教育の原点があり、これは高次な教育でも経験哲学として裏付けられる。学校という枠での授業設計や教材の押しつけは精神と肉体を分離させてやがて学びから離れていく。

現在の教育に照らして考えると、協同する力(荒瀬元校長の言う見えない力)=チームで考え行動する力を育てるのが教育の原点である。子どもの内在的な発達の可能性を信じることが教員の原点にあり、そのために教育は現場で苦労する。(生徒の経験を始点として又帰着点として教育実践をしていく)知識の習得だけではなく、知の総合化が行われる環境が提供される。(経験は過去に拡大されて行く程度にしか未来に拡大はしていかない:デューイ)

今私たちが研究しているカナダのICEモデルは、このことを実践するポータブルな仕掛けである。子どもたちが自然との共生や対立の中で体験しつつ知識を得て総合化していくプロセスがまずICEモデルである。大学の中でも、社会に出ても、ICEモデルのプロセスは実践されていく。成長しつづけるIにしていくことが大切であると考えている。

研究員 花岡隆一

京都市立堀川高校のアクティブラーニングの実践

荒瀬先生の教育改革の実践には感動しました。大学が皆悩んでいることをずっと前からやっている。どういう人間を育てるか? そのために必要なものは何か? それはプロセスを学ぶことではないか? それを生徒に実践してもらうためには教員の沢山のチップス(仕掛け)が必要だから教員も学ぶ。プロセスを学ぶと見えないものが育つ。見えないものが育つと、結果として見える偏差値もあがる。これらのことを実践するための授業設計は、指定図書の事前購読(反転授業の予習)を前提とするグループ学習(協調学習)です。荒瀬先生のことば「生徒は自分がやりたいものが見えると、達成へのモチベーションが上がり、勉強を主体的にやる」8月8日に荒瀬先生の話を聞くことを楽しみにしている。

研究員 花岡隆一

主体的学びに授業映像収録はどう役立つのか

オンライン教育のシステム開発に長く関わってきた小篠洋一氏(専門:物理工学、ソフトウェア開発)が、学修(★注)支援ツールとしての授業収録が学修改革に如何に役立つかについて述べているので紹介したい。(「主体的学び」創刊号)(★注:15コマではなく、15週の学び)

1.      アクティブ•ラーニングへの転換

教育のパライダイム転換により、単位制に基づいて教員と学生が一体になり、学生が主体的に学んだことが授業に反映されることが求められている。つまり、授業は「学習」から「学修」に転換する。この学修時間の増加を始点にした改革への取組み対応のひとつとして、「講義のデジタルアーカイビング化」が推進されている。しかしながら、著者は、この目的に沿って授業収録映像は上手く使われているのか、という疑問を持つ。

2.      「教員と学生が一体化した学習づくり」における映像の価値について

大学における学習支援としてのICTの活用は必ずしも十分とは言えない中で、多くの大学が講義のデジタルアーカイビングを実践している(文科省の調査)。ICTの進歩により授業収録システム運用に関する教職員の負荷を大きく軽減している。にもかかわらず、教員が途中で活用しなくなることの原因を著者は次のように考える。「学生の視点に立った授業設計」「学生の学習環境の支援等の在り方」の実践が不十分であること。教育工学に基づいた「映像技術を学習に十分に活かすための研究」が不十分であること。(米国の調査結果の例をあげているが)さらには映像コンテンツを積極的に活用するための「大学の支援体制や教職員へのモチベーションづくり」「教員への著作権での不安解消」などもあるだろう。

3.      米国の成功事例と主体的学びを促す授業収録

イースタン•ニューメキシコ大学(ENMU)の授業収録導入の成功の秘訣を紹介している。アクティブ•ラ—ニングを実践するための高い目標(人種を越えた幅広い市民に学習の機会を提供し生涯学び続ける能力を養成する)を全学で掲げていること。映像技術をこのためのコアとして位置づけ、専門家(インストラクショナルデザイナー等:最近のMOOCSの授業設計には必須のスタッフとなってきている)を採用して「効果的な教育法と質の高い授業設計のギャップを埋めた。Podcastから障害者へのアクセシビリティまで対応し、幅広い使用方法ワークショップを開き、ベストプラクティスを大学内で共有した。」(著者)まさに授業収録を成功させるマクロ的な条件と言える。

一方、ミクロ的な視点での効果を米国の著名なFD指導者であるD.L.フィンク博士の言う主体的学びの定義(学生が得る情報•アイデア、学生が自ら起す行動、振り返りの3つの活動のつながり)に即して説明する。反転授業などでの事前学修のための情報•アイデア、授業外(ラーニング•コモンズや食堂など)での学生同士のコミュニケーションや恊働学習を通じた気づきによる学生の行動、また授業後の収録映像での振り返りが授業収録(映像アーカイビング)によってつながってくる。

4.      授業収録が学修支援ツールとして浸透していくために考えること

「アクティブ•ラーンニングに即した授業収録の価値」が知識の習得 x 学生自らが起す行動 x 振り返り、の3つの活動とつながっているという指摘は興味深い。著書は米国教育での映像活用の歴史を振り返り、社会が映像に日常的に接することが習慣化していることも指摘する。モバイル端末や各種のインターネットツールが教室内外の学修環境に益々浸透してくる今日、文科省は今年から大学改革を加速するAPを実施するが、この中でも映像活用は大きなテーマのひとつである。学習支援システムやポートフォリオとの連携、映像活用専門スタッフの増強、教務スタッフや高等教育開発センター等のFD支援チームとの連携など工夫すべきことは確かに沢山ある。

 

この論文の最後の言葉がとても大切であると感じた。オンライン教育の専門家である著者が「ICTは道具にすぎない」と戒める。実に多くの意味を含んだ発言である。

 

研究員

花岡隆一

日本の大学に必要なCommunity Engagementとは何か?

国民の声は、現在の大学は社会が期待している人材養成が十分なされていないと言う。全く同じ現象が米国でもある。1995年にロバート•バーとジョン•タグが『教えることから学ぶことへの教育のパラダイムシフト』で書いた。(主体的学び研究所の『主体的学び』創刊号の特集論文「教育から学習への転換」参照)

ユタバレイ大学のアントン•トーマン博士がこれを整理して、さらに一歩進んだ取組みを紹介している。

旧来の講義形式の授業は、知識を伝えること及びそれを覚えることが授業で一番重要とされ、そのアウトカムの評価として選択テストをしていた。しかし、これが明らかな誤りであると多くの教育者により考えられるようになった。決定的なものは長年の脳科学研究の成果として、教えられるだけの知識は脳に残らない、自分で考えるプロセスがないものは知識にならない。さらに、自分の言葉に置き換える作業(パラフレイズ)をしないと自分の知識とならない。そもそも聴いている時は、脳は受身=拒否している。考えている時の脳は受け入れている、ということを証明した。

カナダのクィーンズ大学のスー•ヤング博士は、これをICEモデルという授業方法や評価方法として確立した。(I=Ideas=知識の習得、C=Connections=自分の知識への止揚、パラフレイズ、E=Extensions=学びの社会での活用)(『主体的学び』創刊号「ICEルーブリック」(土持ゲーリー法一博士)「ICE出版記念講演会レポート」参照)

さて、ユタバレイ大学での取組みであるが、米国社会が期待する基本的な人材(=コミュニケーション、チームワーク、批判的精神、倫理感や問題解決能力)養成を目標にしつつ、急激に変化する社会のスピード(例えば、スマホは7年前には存在しなかった)に対応した教育の在り方を考えて試行錯誤している。全ての視点を学生中心(Student Engagement)に考えるのであるが、さらに言うと大学が学問の府として独立するのでなく、社会の一員として社会のスピードに合った教育内容でなければならないと考える。それがCommunity Engagementと言うものである。今後Community Engagement over Student Engagementを重視した主体的な学びが日本の大学でも増えていくことを期待したい。

 

研究員 花岡隆一