主体的学び研究所

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学ぶことへの招待――社会へつながる学びとは(2)

卒後の進路を考える際に、
学生が自分と社会のつながりをどのように見ているか、説明できる人はどれだけいるだろうか。
何を手立てに社会の中の自分を見ているか想像がつくだろうか。

学生はいざ社会に立つときに、
自分自身が社会とどう関わっているか、
自分が社会(や就職先の企業)で何が出来るのかを考えたり、
何をして貢献できるのか、
どうやって自分と社会との相関関係を考えたらよいか分からない。
そして、その術をほとんど身に付けていない、
と(株)ワークスアプリケーションズの佐藤文亮さんは指摘する。

もっと調べていくと、企業選びの際に、大学入試時の偏差値をあてはめる傾向まで見えると言う。
首尾よく入社したとしても、すぐさま入社前に思ったことの「ズレ」や「行き止まり感」を味わうことになろう。

佐藤さんは企業における人材育成・人材開発の経験を通して、
学生が自分自身と向き合い、社会に歩みだすためには、“社会と自分”という観点が必須であることをつきとめ、
その観点を磨く“パトロゴ”というプログラムを開発した。
そのプログラムを通して、人と歴史、自分と社会、という関係を問い、深く学ぶ機会の提供を
複数の大学で実践している。
なかでも、名古屋大学、立教大学では、単位認定の正課科目授業だ。

これは(1)に前述した鹿児島大学の全学必修の地域志向科目と重なるところがある。
複雑で常に変化する未来社会では、今よりさらに「自分自身と社会(周囲)との関係」を問われることになる。
両者ともに、多様なシチュエーション(学校だけに拘らない環境)でも自ら問い、考える行為を促す取り組み事例である。

(つづく)
研究員 大村昌代

学ぶことへの招待――社会へつながる学びとは(1)

鹿児島大学が今年度から新たに開講した全学必修の地域志向科目「大学と地域」のリーフレットがとても興味深い。
教科やコース、テーマの説明が記載されているが、スタイルが違う。
そのテーマは「問いかけ」から始まるのだ。

例えば、環境・島嶼(とうしょ)というテーマでは、
「環境問題という言葉はよく耳にしますが、その具体的な中身は何で、自分にどう関係していますか?」
「私たちは何が出来るでしょうか」
と問うている。

言い換えてみると、
「あなたはそのテーマとどんな関係ですか?」
「あなたは何をしようと考えますか?」
「自分の身に起こることだけではなく、それを地域課題として考えませんか?」
と、「学習者が考える」というスタイルだ。

そして、「大学と地域の関係」を学生が部外者で遠目でみつめるのではなく、
「自分自身と諸課題」「自分自身と社会との関係」を考える機会ですよ、
と問いかけによって学びへと招待しているのだ。
これは学習者中心のシラバスとも共通するポイントではないだろうか。

学習する内容も工夫されていて、COC活動での研究成果や地域課題解決への取組みに深くつながっている。
学校の枠から社会や生涯の学びへとつながる発問が、広く展開されている事例である。

「大学と地域」リーフレット
大学と地域パンフ

(つづく)
研究員 大村昌代

読売新聞•松本美奈氏の「社会に通用するアクティブラーニング」の授業

松本美奈氏による大学の授業を聴講しました。まさにオーセンティックラーニングであり、社会に通用するアクティブラーニングであると感動しました。

兎に角エキサイティングな授業なのです。90分間学生は緊張と集中力を持続しています。時間を1分、2分、4分、5分という単位で学習してもらいます。テンポがとてもよく、学生も主体的に学ぶしか選択肢がなくなる学習環境をつくります。

しかも学びのプロセスで重要なひとりで考える時空間を持ちつつ、グループ活動を多用します。そのグループ活動が秀逸です。グループ活動はメンバーの組合せによっては学習というより単なる雑談に陥ることが多々あるのですが、そういうことが生じない仕掛けをもっています。

松本美奈さんが社会に通用する学びとして強調するのは、①仮設を立てる ②それについて3つの問いを立てる ③自ら回答を考える ①−③のプロセスが機能すると課題についての自分の考えをまとめることができる、ということです。問いは教師が立てるものという日本社会での学び方では社会に出て生きていけない、という強い信念です。さらに、書くことは4つの力を必要とする(つまり育てる)。①自分に質問する力 ②考える力 ③構成する力 ④表現する力 この4つが社会に出て生きて行く力になると言います。

授業設計の構成がすばらしく誰にでもできる授業ではありませんが、大学(高校)の先生が手本にしてもらいたいと思いました。授業終了後に全員のポートフォリオにコメントをいれて、さらに総合アドバイスを映像で履修者に返すという離れ業、これが松本美奈さんの考える授業です。15回がつながり授業が回を重ねて進化していく仕組みです。

ICEモデルを進化させた広島県安芸高校の前校長の柞磨先生に松本美奈さんの授業をお伝えしましたら広島から飛んでいきたいと。自ら問いを立てる、ということが柞磨先生の授業でも全く同じです。「アクティブラーニングは2020年からすべての学校でやることなります。そうなるとこれからのアクティブラーニングは社会に通用するものでなくてはなりません。学校の中だけの学びでは意味がありません。(ゲーリー土持先生)」

松本美奈さんの授業はまさに2020年の先取りです。

 

花岡隆一

『主体的学び』4号を刊行しました

たいへんお待たせしました・・・
雑誌『主体的学び』4号が刊行されましたので、ご案内いたします。

アクティブラーニングを中心とした議論はもちろん、海外事例を鏡のように見つめる機会も取り入れています。
高大の接続も当研究所のテーマとしてフォローしていますが、今回は特別寄稿として、理系女子の進路選択についての論考も収めました。

また、ご要望の多かったICEモデル事例として、
広島県立安芸高等学校のICEアクティブラーニングの取組み、および、ICEモデルの高等教育向けの翻訳論文を掲載。

今までよりも増ページしてお届けします!

<<東信堂、および各書店等でご注文下さい>>
http://www.toshindo-pub.com/
(アマゾン等のインターネット経由の注文も近日購入可能になります。)

A5判 定価 2,000+税
ISBN 978-4-7989-1365-0
出版社 東信堂
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アクティブラーニングはこれでいいのか

アクティブラーニング(AL)はこれでいいのかという揺さぶり
この揺さぶりが「この授業はこのままでいいのか」「学生は何を学べただろうか」と問いを投げかけてくる。
例えば「いつもよりは意欲的」「寝なかった」というALに対する戸惑いとも思える声。その気づきは振り返りに重要な点。やりようは他にもあるし、先生にとっても学生にとっても進化(深化)過程の段階だからかもしれない。決してそこで”終り”にしないで欲しい。
その授業を通して学びが促進されたかの判断や評価の時期や観点が適切だったと言えるだろうか。学生の変化がなかったならば、真にアクティブな状態になる仕掛けや工夫はあったのだろうか。今までもうまくいっていた授業では、何があったのだろうか。そもそもその1時間の授業(目標)にはどんな方法が適していたのだろうか。
問いは続くはず。先生方も、学生の学びも両方とも続く。質の高い学びと授業が螺旋状に登り高まるよう、支援を続けたい。
研究員 大村昌代

雑誌『主体的学び』4号 近日刊行

★特集<アクティブラーニングはこれでいいのか>
アクティブラーニングで何をどのように学び、何ができるようになるのか。
そもそも何のためにアクティブラーニングをするのか。
その授業は協働的な学び、能動的学び、体験学習が適しているのか。広く議論する場としたい。
<特集論考>
「看図アプローチが導く主体的学び」鹿内信善(福岡女学院大学教授)
「協働学習との今日的付き合い方」船守美穂(東京大学特任准教授)
「ジョン・ズビザレタ教授とアクティブラーニングについて語る」土持ゲーリー法一(帝京大学教授)
他、事例研究、海外研究、翻訳論文等を掲載。

研究員 大村昌代

キャリア教育の障害と「柔軟な専門性(Flexpeciality)]

本田由紀さんの「教育の職業的意義」を読む。日本では教育の職業的意義を学んでいないという指摘である。若年労働環境が悪化している今日、中等教育、高等教育での職業的意義の回復が焦眉の急である。職業教育に関する歴史、世界との比較、キャリア教育、職業的意義の構築の方向などが論じられている。

キャリア教育は障害であることを指摘している。1990年代の後半から国の施策として推進されてきた。「人間力」「生きる力」などの概念である。キャリア教育は勤労感や職業感の育成を範疇として、職業教育は知識や技能の育成を対象とするようになっている。キャリア教育には教育全体の目的と重なり非常に曖昧な意味付けとなる。現場の教師は具体的な学び方が明確でないことで、学習者は「将来の職業はきちんと考えて選びなさい」という一種の圧力としての教育になってしまう。さらには、教育の職業的意義は、本来「適正」の学びと「抵抗」の学びの両方が必要であるが、キャリア教育は「適正」のみを強調している。

教育の空間には余白が必要であるという。全て到達目標に向かってバックデザインされた教育プロセスを自覚して学ぶのではなく結果として成長していたという学びである。

「柔軟な専門性(Flexpeciality)」は秀逸な指摘である。専門性に関しての基盤を作るとそこから学際的な分野、リベラルアーツへの学習の広がりが発展していく。これは学習プロセスとしても実証されているが、現実の社会でも多くの実証例がある。ICEモデルとも通じるアクティブラーニングである。東京女子医科大学の「チュートリアル」という協働学習がある。女性医師の専門職を基本として社会人としての学びを症例研究を通じて、学生が授業の全てをつくる学びである。女性がもっと活躍する社会を、医師という専門職を意識する中で考えていく、まさに本田さんの言う「柔軟な専門性」ではないかと思う。

 

本田由紀「教育の職業的意義」(ちくま新書)

 

研究員 花岡隆一

ディープ•アクティブラーニングにつながるポートフォリオOPPA

堀哲夫先生(山梨大学 理事•副学長)が開発したOPPA(One Page Portfolio Assessment)は大学の授業が単元でなく15コマつなぐことの重要性を通奏低音にもった素晴らしい、とてもコンパクトなポートフォリオであり、全国の教育現場で活用して欲しいと感じた。

コンパクトなツールとしては広島県立安芸高校(柞磨校長)が推進しているアクティブラーニングを促すICEモデルと重なるところがある。

何を学ぶか(ICEのextension)、どう学べたか、どう学べなかったか(Fink先生と同じ問いかけ)の自らへの問いかけを受講前と受講後に考える。さらに各コマでの省察を極めてコンパクトに記述する。これを一切の「学習評価に用いない」というのを聞いて、成る程と思う。評価に使うということが学習者に伝わった時点で、学習者は教師の方向を向いてしまい自分の成長のためのポートフォリオとはならなくなる。知識テストの結果との関連性を比較をしてみたら、よく省察できている学習者の知識テストが必ずしも高くないということもあった。使う頭が違うのである。生涯学び続ける能力はポートフォリオで成長の軌跡を省察できる学習者が明らかに高い。

深い学びにつながるコンセプトマップも受講前と受講後で書いてみると全く違うものができる。これも成る程と思う。

堀先生のもうひとつの研究は「道徳」授業の評価方法である。「道徳」では正しいことの知識を得ることが目標ではないにもかかわらず、そうした授業をして評価していることに疑問を持たれた。OPPAを使った授業をしていて、「道徳」授業はまさにポートフォリオをつくることと同じであると考え、高校の先生方とも議論を深めている。

参考文献: 『教育評価の本質を問う 一枚ポートフォリオ評価 OPPA』
堀哲夫著 東洋館出版社

 

研究員 花岡隆一

広島県立安芸高校の柞磨(たるま)校長によるアクティブ•ラーニングを促すICEモデルの実践

予てよりアクティブ•ラーニングを促す授業方法としてICEモデルの活用を実践している広島県立安芸高校の柞磨校長は多くの先生方とその実践を深めている。昨今どこのFDセミナーでも話題となる「アクティブ•ラーニングの定義」であるが、柞磨先生は次のように定める。『Active Learningとは、問の生成、自己内対話・相互作用、省察・価値づけができていること。さらに簡潔に言うと「開かれた質問」ができることである。』

ICEを日本に紹介した土持ゲー−リー先生も柞磨先生の考えに賛同され、ICEの基礎知識はconnectionsやextensionsを考えながら質問をすることであると言われる。カナダのSue先生もこのことに触れていてICEモデルは必ずしもIdeasから始まるものではなく、例えばextensionsからはじめる「バックワードデザイン」がある。つまり到達目標を教師が明確にすることで生徒がこれから学ぶIdeasやconnectionsに生徒なりの方向性を持つことができる。つまり自分の問いが生まれる学習が発生する。

ICEの特長のひとつである動詞の使い方についても柞磨先生とゲーリー先生の対談はとても興味深い。多くの動詞に拘りすぎて肝心の文脈の理解が疎かにならないかという疑問であるが、教師がextensionsのターゲットを明確化していれば、それにつながる必要な動詞を教師それぞれの判断で使うのがよいのではないだろうか、という考え方である。

お二人の対談は尽きることがなく高校と大学の連携がますます重要になっていることを痛感した。

 

 

研究員 花岡隆一

高大接続 ”追手門学院大学のアサーティブプログラム•アサーティブ入試” 

昨年度のAPで採択された「アサーティブ入試」の発案者でもある追手門学院大学の志村知美氏(アサーティブオフィサー)と倉部史記氏の対談が実現した。新しく始める倉部史記氏の高大接続映像チャネルの第一回のゲストである。倉部さんの活動の低奏通音がある。高校生に正しい進路選択をして欲しいという思いである。そのために様々な取組みに挑戦しているが、今回の映像チャネルもそのひとつである。

志村氏の話は驚きの連続である。アサーティブ入試の前にアサーティブプログラムがある。高校1年生から3年生までを対象にした進路指導•相談の活動である。自校への誘致を目的としたオープンキャンパスとは異なる。「追手門で学びたいという生徒を見つける→追手門がいい(追手門でいい、ではない)」という生徒の発掘である。このためには大学が正しい情報を高校生に示す必要がある。(追手門への入学希望者を減らすということも辞さないという覚悟である)2年間実施した結果、2014年はアサーティブプログラム+アサーティブ入試を通じて入学した学生が100名となった。見事な結果である。5年後には全入学者の1/3までにしたいと、志村氏は意気込む。この活動のための教職連携も見逃せない。職員50名がアサーティブ活動に従事している。

さらにこの活動には具体的な目標を設定している。それが入学後に学生がアクティブラーニングを推進することができるための必要な知識を得ることで、最大のテーマはシラバスを使いこなせることである。シラバスは4年間の学びの計画を立てるための指標である。アサーティブで入学した学生はシラバスを読み解くことの面白さを理解しているので授業にも興味を持てる。主体的な学びとなり、さらにアクティブラーニングという学習形態に発展していく。

アサーティブプログラムの窓口に来る多くの高校生は寡黙である。窓口に来るのであるから相談したいことはあるが、それを上手く話すことができない。アサーティブで引き出すのは経験が必要である。北海学園の菅原秀由幸先生が開発した「アカデミックコーチング」と通じる。上手く引き出してあげると生徒は一気に自分自身を考えることができる。帝京大学の八王子キャンパスで2年間実施している「アクティブラーニングの第一歩につながる入学準備教育プログラム」にも通じる。(このプログラムも文科省の特別事例に採択されている)

アサーティブプログラムが全国に広く普及することを期待したい。

 

研究員 花岡隆一