主体的学び研究所

「主体的学び」とポートフォリオ

5「主体的学び」とポートフォリオ

主体的学び研究所 顧問
土持ゲーリー法一

はじめに
 今回は、ポートフォリオを取り上げる。最近、ポートフォリオが注目されている。ポートフォリオには、大きく分けて3つのタイプがある。厳格な教員業績審査を対象としたアカデミック・ポートフォリオ、教員の授業改善に教員業績も加味したティーチング・ポートフォリオ、そして学習者の学習改善を意図したラーニング・ポートフォリオである。「主体的学び」をテーマとすることから、ここでのポートフォリオはラーニング・ポートフォリオのことである。以下、ポートフォリオと略す。

なぜ、ポートフォリオが注目されるようになったのか
 これは、アクティブラーニングの促進と無関係ではない。これまで、知識の多寡が学習者の能力を判断する基準に使われてきたが、能力には知識のほかに、技能・態度の領域があり、これがアクティブラーニングを促すと考えられるようになった。また、2045年のAI(人工知能)の到来の時代には、知識では太刀打ちできないことも危惧されている。3「主体的学び」の図1「評価方法と分類目標との関係」では、AI(人工知能)に対峙するには、技能・態度が重要であることを述べた。しかし、技能・態度の領域を測定するには、知識とは別の測定方法が必要である。その技能・態度を測定できるのがポートフォリオであることが、図1からも明らかである。
 ポートフォリオは、二つの点において重要である。一つが「コンセプト・マップ」であり、もう一つが省察のための効果的な「クエスチョン」である。前者はポートフォリオと一緒にまとめるものである。したがって、ポートフォリオ以上にコンセプト・マップは重要であるということができる。ポートフォリオは学習者の学びのプロセスをことばに直してストーリー化したものであるが、コンセプト・マップはどのようにして、そのような考えに至ったか、学びの軌跡の内面をマッピングしてくれるもので、教員との対話を可能にするツールである。

ポートフォリオよりもコンセプト・マップ
 ポートフォリオを書かせるよりも、コンセプト・マップを描かせることが教員にとっても、学習者にとっても教育効果がある。筆者の授業では、コンセプト(キーワード)をマッピング(関連づけ)させている。関連づけるためにもっとも重要なのが、「なぜ」の問いかけである。すなわち、キーワードを羅列するだけでは、コンセプト・マップにはならない。
 4「主体的学び」で、課題解決型と課題発見型について言及した。これまでのコンセプト・マップは、課題解決型に近いもので、「課題」が与えられ、それを中心に「枝葉」を継ぎ足し「幹」とするものである。しかし、課題発見型としてのコンセプト・マップも可能である。これを「アクティブ・コンセプト・マップ」と呼ぶことにする。すなわち、学びのプロセスを振り返り、そこでのキーワードを「動詞」で関連づけることで、最終的に、課題を発見するという、バックワードデザイン的手法である。PBLとTBLの違いにも似ている。前者が「課題」が先に与えられて、課題を解決するのに対して、後者は議論のプロセスの中で課題を発見して解決に導くものである。前者には、ファシリテーターが必要であるが、後者にはとくに必要でない。

ポートフォリオの質は省察的問いかけで決まる
 二つ目は、どのような省察的クエスチョンを学習者に課すかである。質問の仕方によって、学習者に優れた回答を促すことができることを考えれば、解答よりも質問が重要である。まさしく、メンターのメンターリングに通じるものである。以下に、ラーニング・ポートフォリオの世界的権威者であるアメリカのコロンビア・カレッジのジョン・ズビザレタ教授が直伝してくれた、8つの項目の学習者への効果的で省察的な質問項目を紹介する。これについては彼の著書の中でも紹介されているが、筆者のものと若干異なる。筆者は、この8つの項目を、ポートフォリオを書く前に、学習プロセスを省察させるために、学習者に自問自答させるように促している。

 1)この授業から何を学ぶことができましたか。あるいは、逆に、学ぶことができませんでしたか。
 2)どのような状態で最も学ぶことができましたか。あるいは、逆に、学ぶことができませんでしたか。
 3)なぜ、学ぶことができましたか。あるいは、なぜ、学ぶことができませんでしたか。
 4)学習者として何をどのように学びましたか。
 5)この授業は、他の授業の学習やこれからの人生にどのようなつながりがありましたか。
 6)この授業は、実践的な学習に役立ちましたか。
 7)この授業を楽しむことができましたか。それは、どのような意味においてですか。
 8)この授業をもう一度やり直すとしたら、学習を高めたり、向上したりするために何か違ったことをしますか。

 前半の1)~3)は学習プロセスを振り返らせるための効果的な質問項目である。また、5)~8)はこの授業を踏まえて何ができるか、その応用・展開を問うたものである。そして、もっとも、重要なものが4)の「学習者として何をどのように学びましたか」である。これは、ズビザレタ教授が指摘する学習者の「学習哲学」に相当するもので、これこそが、生涯学習者としての「礎」になるものである。

おわりに
 最近、デジタル時代でITを活用した電子媒体のポートフォリオが注目されている。これを否定するものではないが、ポートフォリオはコンセプト・マップを描いて学習者の内省を促すもので、手書きのポートフォリオが望ましい。ディー・フィンク博士は3つのアクティブラーニングの領域を説明する中で、究極なアクティブラーニングは「考える」、「省察」することにあると指摘している。すなわち、ポートフォリオこそが、主体的学びを促すツールであると結論づけることができる。

(2017年11月6日)