主体的学び研究所

07月

学ぶことへの招待――社会へつながる学びとは(2)

卒後の進路を考える際に、
学生が自分と社会のつながりをどのように見ているか、説明できる人はどれだけいるだろうか。
何を手立てに社会の中の自分を見ているか想像がつくだろうか。

学生はいざ社会に立つときに、
自分自身が社会とどう関わっているか、
自分が社会(や就職先の企業)で何が出来るのかを考えたり、
何をして貢献できるのか、
どうやって自分と社会との相関関係を考えたらよいか分からない。
そして、その術をほとんど身に付けていない、
と(株)ワークスアプリケーションズの佐藤文亮さんは指摘する。

もっと調べていくと、企業選びの際に、大学入試時の偏差値をあてはめる傾向まで見えると言う。
首尾よく入社したとしても、すぐさま入社前に思ったことの「ズレ」や「行き止まり感」を味わうことになろう。

佐藤さんは企業における人材育成・人材開発の経験を通して、
学生が自分自身と向き合い、社会に歩みだすためには、“社会と自分”という観点が必須であることをつきとめ、
その観点を磨く“パトロゴ”というプログラムを開発した。
そのプログラムを通して、人と歴史、自分と社会、という関係を問い、深く学ぶ機会の提供を
複数の大学で実践している。
なかでも、名古屋大学、立教大学では、単位認定の正課科目授業だ。

これは(1)に前述した鹿児島大学の全学必修の地域志向科目と重なるところがある。
複雑で常に変化する未来社会では、今よりさらに「自分自身と社会(周囲)との関係」を問われることになる。
両者ともに、多様なシチュエーション(学校だけに拘らない環境)でも自ら問い、考える行為を促す取り組み事例である。

(つづく)
研究員 大村昌代

学ぶことへの招待――社会へつながる学びとは(1)

鹿児島大学が今年度から新たに開講した全学必修の地域志向科目「大学と地域」のリーフレットがとても興味深い。
教科やコース、テーマの説明が記載されているが、スタイルが違う。
そのテーマは「問いかけ」から始まるのだ。

例えば、環境・島嶼(とうしょ)というテーマでは、
「環境問題という言葉はよく耳にしますが、その具体的な中身は何で、自分にどう関係していますか?」
「私たちは何が出来るでしょうか」
と問うている。

言い換えてみると、
「あなたはそのテーマとどんな関係ですか?」
「あなたは何をしようと考えますか?」
「自分の身に起こることだけではなく、それを地域課題として考えませんか?」
と、「学習者が考える」というスタイルだ。

そして、「大学と地域の関係」を学生が部外者で遠目でみつめるのではなく、
「自分自身と諸課題」「自分自身と社会との関係」を考える機会ですよ、
と問いかけによって学びへと招待しているのだ。
これは学習者中心のシラバスとも共通するポイントではないだろうか。

学習する内容も工夫されていて、COC活動での研究成果や地域課題解決への取組みに深くつながっている。
学校の枠から社会や生涯の学びへとつながる発問が、広く展開されている事例である。

「大学と地域」リーフレット
大学と地域パンフ

(つづく)
研究員 大村昌代