主体的学び研究所

08月

高大接続 ”追手門学院大学のアサーティブプログラム•アサーティブ入試” 

昨年度のAPで採択された「アサーティブ入試」の発案者でもある追手門学院大学の志村知美氏(アサーティブオフィサー)と倉部史記氏の対談が実現した。新しく始める倉部史記氏の高大接続映像チャネルの第一回のゲストである。倉部さんの活動の低奏通音がある。高校生に正しい進路選択をして欲しいという思いである。そのために様々な取組みに挑戦しているが、今回の映像チャネルもそのひとつである。

志村氏の話は驚きの連続である。アサーティブ入試の前にアサーティブプログラムがある。高校1年生から3年生までを対象にした進路指導•相談の活動である。自校への誘致を目的としたオープンキャンパスとは異なる。「追手門で学びたいという生徒を見つける→追手門がいい(追手門でいい、ではない)」という生徒の発掘である。このためには大学が正しい情報を高校生に示す必要がある。(追手門への入学希望者を減らすということも辞さないという覚悟である)2年間実施した結果、2014年はアサーティブプログラム+アサーティブ入試を通じて入学した学生が100名となった。見事な結果である。5年後には全入学者の1/3までにしたいと、志村氏は意気込む。この活動のための教職連携も見逃せない。職員50名がアサーティブ活動に従事している。

さらにこの活動には具体的な目標を設定している。それが入学後に学生がアクティブラーニングを推進することができるための必要な知識を得ることで、最大のテーマはシラバスを使いこなせることである。シラバスは4年間の学びの計画を立てるための指標である。アサーティブで入学した学生はシラバスを読み解くことの面白さを理解しているので授業にも興味を持てる。主体的な学びとなり、さらにアクティブラーニングという学習形態に発展していく。

アサーティブプログラムの窓口に来る多くの高校生は寡黙である。窓口に来るのであるから相談したいことはあるが、それを上手く話すことができない。アサーティブで引き出すのは経験が必要である。北海学園の菅原秀由幸先生が開発した「アカデミックコーチング」と通じる。上手く引き出してあげると生徒は一気に自分自身を考えることができる。帝京大学の八王子キャンパスで2年間実施している「アクティブラーニングの第一歩につながる入学準備教育プログラム」にも通じる。(このプログラムも文科省の特別事例に採択されている)

アサーティブプログラムが全国に広く普及することを期待したい。

 

研究員 花岡隆一

 

「アクティブラーニング」と「主体的な学び」は同じか否か!

再び溝上慎一先生の著作にある問題提起である。「主体的学び」については顧問の土持ゲーリー先生の考えを中心に研究所としても整理したが、「アクティブラーニング」と同じか否かという問いかけはとても重要であると考える。私たちは研究所の目的のひとつがアクティブラーニングの教育現場での実施状況を調べてその課題等を考えることであったので、「主体的学び」を「アクティブラーニング」とほぼ同じ概念として考えてきた。

溝上先生のアクティブラーニングの定義は「受動的な学習から能動的な学習への転換の中でこれまでの聴く学習から書く•話す•発表するという活動から生じる認知プロセスの外化という統合的な活動」とする。つまりアクティブラーニングは既にひとつの学術用語としての機能をもっていると考える。「主体的」を広辞苑では「他のものによって導かれるのではなく、自己の純粋な立場において行うさま」と記述することから、「主体的学び」は主体的に自ら何かに働きかけるという広義の意味で解釈するのがよいのではないかと。

例えばすばらしいくよく講義を聴くことはアクティブラーニングとは言えないが主体的な学びではある。これはすっきりと理解できる。溝上先生のお陰でとてもよい整理ができた。

 

研究員  花岡隆一

なぜアクティブラーニングか?

溝上慎一先生が近々東信堂からアクティブラーニングの総集編を出すと聞いたので少し前の著作を読む。フィンク先生の意義ある学習経験やボンウェルとアイソン先生のアクティブラーニング、チッカリングの教育とアイデンティティ等を引用しながら、米国で1980年頃より、日本では2000年頃よりアクティブラーニングが起こってきた背景が明示される。

主体的学び研究所を設立したときは2012年中教審の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」が出たときである。答申ではアクティブラーニングのポイントとして「認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用能力の育成を図ることにつながるもの」と記述されている。そこで研究所を主体的学び(アクティブラーニング)について、特に教育現場で起こっていることを調べることを目的として設立した経緯がある。

それだけに溝上先生の「なぜアクティブラーニングか」は抑えておく必要があると思う。米国でコミュニィティカレッジと大学でそれぞれ教育と研究を分けて担当していたことから大学の研究重視への偏りが生じたことへの反省から改めて教育重視に戻ってきた中で、大学の大衆化、学生の多様化が起こってきたことに起因している。日本でも1970年代からの大学の大衆化の中で聴くだけの講義で主体的になれない学習者が増えてきた。受験のための受身型学習が背景にもある。それに対して教師も工夫が必要となってくる。

溝上先生のアクティブラーニングの定義は「認知プロセスの外化」というキーワードが重要である。聴くこともアクティブラーニングの要素であるが、それに書く•話す•発表するという能動的活動があって、この活動に関連する認知プロセスが外化されてアクティブラーニングとなる。

この秋にもシリーズでアクティブラーニングが発行されるがとてもタイムリーな企画であり楽しみである。

 

 

研究員  花岡隆一

アクティブラーンニングとデザイン教育

事業創造大学院大学の仙石正和学長(前新潟大学副学長)にお会いする。日本の工学教育に関する課題とデザイン教育の必要性をお話し頂く。米国ボストンにあるオーリン工科大学の取り組みはアクティブラーニング、TBL(Team Based Learning)の基本的な実践から始まっている。即ち、選択されたチーム形成(自主的なもの)・現実の課題(体験的な学習ではなく、社会が直面しているニーズ)・あらかじめ問題を整理してくる・学習成果も勿論であるが学習プロセスをより重視する・そしてアカウンタビリティである。

日本では70%がサービス分野になっている今日、サービスの体系化が必要ではないかというのが仙石先生の指摘である。そのためにはデザイン教育=解決策がひとつでない課題に対するアプローチを学ぶ学習、は必須になる。これを実践しているのが、ボストントライアングルである。オーリン工科大学(工学)、ウェズリー大学(文化・芸術)、パブソンMBA大学(ファイナンス)によるデザイン教育である。
スタンフォード大学やUCLAバークレイ校でもデザイン教育は当たり前になっている。

 

 

研究員  花岡隆一