主体的学び研究所

06月

人材開発世界大会(ATD2015-ICE)におけるengagement

今年のATD(Association for Talent Development:フロリダ)には世界から1万人の来場があり、14のテーマで300のセッションを開催した。その中で、Learning Technology, Instructional Design, The Science of Learning, Learning Analyticsに関したものが多かった。ATDは今年で71年目、毎年この大会で話題になるセッションや言葉がその時代の潮流を表している。世界の働き手の中心はMillenial (Y)世代であり、またDigital 世代である。

彼らがどういう教育環境を経て、どういう社会を構築していくのかをATDの歴史を鳥瞰すると面白い。5年前はダニエル•ピンクの内発的なパッション(経済的なものより心に熱いものを求める)、マーカス•バッキンガムのエッジを伸ばす(得意なことをやれ)、あるいはブルーエンジェルスのdebrief(仲間を信頼せよ、振り返れ)、そしてジョン•コリンスの謙虚と不屈。2013−4年になると自分の力だけでなく周りを育てること、組織は皆で創造する、さらには変化に適合できるチームづくり(アリアナ•ハフィントン)や遊びが文化や生産性を変える(ケビン•キャロル)そして今日は「混沌から共に学び、貢献するとき、殻を破り創造力を高める時代」(間宮隆彦氏)

さらにLearning Technologyという視点で見た社会の傾向は「モバイル」と「ソーシャルテクノロジー」の時代である。モバイルラーニング(eラーニングとは言わない)は企業でも大学でも主流になりつつある。5−7分の短いコンテンツを現場(囲まれた教育の場所でなく)で、どこでも学ぶというスタイルが定着してきた。今までの1:1の学びから1:nの学び(協同学習)が効果的であると認識される。仲間で学ぶというのはY世代の特長でもある。1:nの学びはメンタリングの在り方も変える。大学でも協同学習=アクティブ•ラーニングをできる教師の資質やトレイニングが課題となっている。モバイルへの移行は必然的にvirtual(on-line)の世界になっていくため、学習者のengagementが重要になる。つまり学習エコシステムの課題である。学習環境がここまで変化したことへ学習プロセスや評価がまだ追いついていない。

 

 

研究員 花岡隆一

空想商品開発研究所・空想学会と主体的学び

空想商品開発を通じて現実の商品や起業を実現するプロジェクトが秋葉原で始まった。今回は、銀河鉄道999のアニメ作家の松本零士氏を実行委員長として西武鉄道にラッピングカーを走らせる。

7月7日にキックオフとなるが、これまでに100社の企業が参加してアイデアソンを行ってきたが、出席者がすごい。企業人も個人も超主体的人間である。この人たちがファンディングして今年末には第一号の鉄道が走るのである。

鉄道の新素材〜車両空間〜駅〜周辺街〜運行サービスなど奇抜なアイデアが次々と出てきた。企業の中でルールに制約された活動では生まれない。社会に開かれた主体的学びまさにcommunity engagementの実践である。

 

研究員    花岡隆一

 

 

広島県での主体的学びの創造を促す「ICEモデル」の推進

この程、広島県教育委員会は中教審において、同県が進める教育改革10年計画を報告した。知識ベースの学びに加えて社会を生き抜くための必要な資質や能力を得るための「主体的な学び」の創造を目指すものである。このために自ら課題を見付け,それをよりよく解決していく「課題発見・解決学習」を推進していく、としている。この授業方法として「ICEモデル」を推進していくことを記述している。

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/167415.pdf

私たちは2012年にカナダで普及している「ICEモデル」は日本の教育改革に適していると考えて開発者の一人であるSue博士の論文を紹介した。今日まで様々な現場での実践が行われている。高等教育では、看護学等でその評価にICEルーブリックが検討されている。広島県では小中高校全体が「ICE」を学び独自の取組みがなされている。県立安芸高校での実践例を近くご紹介できる。

 

<参考著書>
「主体的学び」につなげる評価と学習方法―カナダで実践されるICEモデル (主体的学びシリーズ―主体的学び研究所) 東信堂出版

 

 

研究員 花岡隆一

大学改革を本気で考える会

恒例のNEWVERY主催による大学教職員セミナーに参加する。2020年、2030年と入学者が減少する中で、大学が生き残るためには本気の改革が必要であるという強いメッセージが発信された。それを実現できるのは現場の教職員であり経営者ではない。現場の教職員が今こそ大きな第一歩を踏みだすときという。

入試改革、カリキュラム体系改革(通年制やセミスター制)、アクティブ•ラーニングの加速、ICTの導入、中退防止策、高大接続など改革の視点は様々であるが、その実行に心があるか=学生に寄り添ったものであるかどうか、が問われる。時に大学生き残りということが目的になって、大学の存在意義を忘れていることがある。

もう一度現場の教職員が何故自分は大学で働くのか? を自問自答してそれぞれの改革の道を歩む必要がある。清々しいセミナーである。

 

研究員 花岡隆一